第1 非上場株式に関する基礎知識
1 用語の説明
(1) 非上場株式とは?
(2) 譲渡制限株式とは?
(3) 株券発行会社、株券不発行会社とは?
(4) 全部取得条項付種類株式、取得条項付株式とは?
(5) 取得請求権付株式とは?
(6) 支配株主・少数株主とは?
(7) 少数株主の主な権利とは?
2 非上場株式・少数株式であることによる問題点
(1) 売却が困難であることについて
3 非上場株式保有者が売却を検討するにあたって取り得る手段
(1) 株式の権利内容、株主構成等を確認する手段
(2) 株式の価値を確認する手段
(3) 会社の決議内容を確認する手段
(4) 株券が手元にない場合の手段
4 非上場株式の価格
(1) 各種評価方法
(2) 適正な評価方法
(3) 具体的場面での価格
(4) 国税庁方式価格の位置づけ
5 非上場株式売却後の税務処理
(1) 買主が個人であるとき
(2) 買主が第三者たる法人であるとき
(3) 買主が株式の発行法人であるとき
(4) 適正な時価について
(5) 売却価格を巡って税務署と争われた裁判例
1 用語の説明
(1) 非上場株式とは?
「非上場株式」とは、証券取引所で取引されていない株式のことです。
非上場株式においては、後述する譲渡制限が設けられている場合も多いため、譲渡制限株式と同義であると誤解される場合がありますが、非上場株式であることから当然に譲渡制限が設けられるわけではなく、譲渡制限が設けられていない非上場株式は、証券取引所で取引することはできないものの、譲渡人と譲受人との間で売買契約等を締結することにより株式を譲渡することは自由です。
(2) 譲渡制限株式とは?
譲渡制限株式の譲渡を承認するか否かは、定款で別段の定めをすることはできるものの、原則としては、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会で決定されます(会社法139条1項)。
なお、相続により譲渡制限株式を承継する場合は、ここでいう「譲渡」には該当しません(会社の承認を得る必要はありません)。
イ 株式に譲渡制限が設けられているか否かを確認する方法としては、①会社の定款を確認する方法と、②会社の登記簿謄本を確認する方法があります。
①会社の定款を確認するために少数株主が利用できる手段としては、「定款閲覧等請求権」があり、株式を1株でも保有していれば、会社の営業時間内に、いつでも、定款の閲覧等を請求することができます(会社法31条2項)。
株式に譲渡制限が設けられている場合には、定款において、下記のように規定されています。
第〇条 当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない。
②会社の登記簿謄本は、全国の法務局、支局、出張所において、誰でも取得することができます。世の中には商号が同じ会社も存在することから、誤って他の会社の登記簿謄本を取り寄せることがないように、会社の登記簿謄本を取り寄せる場合には、会社の商号と本店所在地を確認する必要があります。会社の本店所在地が不明な場合には、会社のホームページを確認すると良いでしょう。
株式に譲渡制限が設けられている場合には、会社の登記簿謄本において、下記のように規定されています(株式に譲渡制限が設けられていない場合には「株式の譲渡制限に関する規定」という欄自体がありません。)。
(3) 株券発行会社、株券不発行会社とは?
「株券発行会社」とは、株券を発行する旨の定款の定めがある株式会社のことです(会社法117条7項)。他方、株券発行会社でない会社が株券不発行会社です。
株券発行会社において株式を譲渡する場合には、譲渡人と譲受人との間で株式譲渡の合意をすることに加え、株券を交付しなければ譲渡の効力は生じません(会社法128条1項)。
株券発行会社は、株式の発行後、遅滞なく株券を発行しなければならないのが原則です(会社法215条1項)が、非公開会社(発行している全ての株式について譲渡制限が設けられている会社のことをいいます。)の場合には、株式の譲渡が頻繁には行われないことから、株主の請求がない限り、株券を発行しないことができるとされています(会社法215条4項)。また、公開会社(少なくとも1種類の株式について譲渡制限を行っていない会社のことをいいます。)の場合であったとしても、株主が株券の発行を受けることを望まないことがあり得ることから、株主から会社に対して、株券の不所持の申出があった場合には、会社は当該株主の請求があるときまで株券を発行しないことができるとする株券不所持制度があります(会社法217条)。
イ 株券発行会社か否かを確認する方法としては、前述した株式に譲渡制限が設けられているか否かを確認する方法と同様に、①会社の定款を確認する方法と、②会社の登記簿謄本を確認する方法があります。
株券発行会社の場合には、定款において、例えば下記のように規定されています。
第〇条 当会社の発行する株式については、株券を発行するものとする。
また、株券発行会社の場合には、会社の登記簿謄本において、下記のように規定されています(株券不発行会社の場合には「株券を発行する旨の定め」という欄自体がありません。)。
(4) 全部取得条項付種類株式、取得条項付株式とは?
全部取得条項付種類株式は、債務超過に陥った会社の事業再建のために利用される他、キャッシュ・アウト(株主を会社から退出させるため、会社の発行する株式全部を株主の個別の同意を得ることなく、金銭を対価として取得する行為)の手段として利用されることがあります。
会社が全部取得条項付種類株式を発行するためには、定款で所定の事項(発行可能種類株式総数、全部取得条項付種類株式の取得対価について総会決議により定めるべき事項に規定する取得対価の価額の決定の方法、当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件)を定める必要があります。
なお、全部取得条項付種類株式が発行されているか否かについては、株式に譲渡制限が設けられているか否かや、株券発行会社か否かを確認する場合と同様に、①会社の定款を確認する方法と、②会社の登記簿謄本を確認する方法があります。
取得条項付株式は、少数株主の株式についてのみ取得条項付株式としておき、少数株主に相続が発生した場合に、会社が強制的に当該株式を取得可能な状態にしておくというように、少数株主対策として利用されることがあります。
なお、上記の全部取得条項付種類株式と取得条項付株式は似ていますが、全部取得条項付種類株式の場合は、当該種類株式のみを全部取得できるのに対し、取得条項付株式の場合は、その発行する全部の株式を取得できるという点や、全部取得条項付種類株式の場合は、一定の事由が生じた時に株主総会の決議を経た上で株式を取得できるのに対し、取得条項付株式の場合は、一定の事由が生じた時に株主総会の決議を経ることなく株式を取得できるという点で違いがあります。
(5) 取得請求権付株式とは?
「取得請求権付株式」とは、会社が定款により、株主が会社に対して自己が保有する株式の買取りを請求できる旨を定めている株式のことです(会社法2条18号、108条1項5号)。
取得請求権付株式は、株主側から会社に対して株式の買取請求をすることができるため、投資家が出資をしやすくなる等のメリットがあります。
(6) 支配株主・少数株主とは?
「支配株主」とは、株主総会の普通決議が成立するためには、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、かつ、出席した株主の議決権の過半数が賛成する必要があるため、議決権の過半数を有し、会社の経営に対して支配力を有する株主のことをいいます。
他方、「少数株主」とは、当該株主が単独では議決権の過半数を有しないため、会社の経営に対して支配力を有することができない株主のことをいいます。
上記のような少数株主が存在する主な原因としては、税金対策などにより支配株主以外に株式を保有させたことや、相続が繰り返されることにより株主が分散してしまったことや、会社の役員や従業員などへの福利厚生・モチベーションの向上のために株式を保有させたことや、関係強化等の目的で取引先に株式を保有させたことなどが挙げられます。
(7) 少数株主の主な権利とは?
また、1株でも株式を保有する株主であれば行使可能な権利である「単独株主権」と、総株主の議決権の一定割合や一定数以上又は発行済み株式総数の一定割合以上を有する株主のみが行使できる権利である「少数株主権」の区別があります。
①株主提案権とは?
株主には、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限られます。)を株主総会の決議事項とすることを請求できる株主提案権という権利があります。そして、株主提案権には、㋐議題提案権と㋑議案提案権の2つの権利が含まれています。
㋐「議題提案権」とは、株主総会における議題(株主総会の目的事項)を取締役に提案できる権利のことです(会社法303条)。
他方、㋑「議案提案権」とは、株主総会の議題とされている事項について、自ら議案(株主総会の目的事項に関する具体的な提案)を提案することを請求できる権利のことです(会社法304条)。
例えば、株主が取締役に対し、株主総会の目的事項として、「取締役選任の件」という議題を提案(㋐)した後、自己が推薦したい取締役が存在する場合、株主総会において、「Aを取締役に選任する件」として議案を提案(㋑)し、株主総会に賛否を問うことができます。
㋐議題提案権は、非公開会社で取締役会が設置されていない場合には、単独株主権とされます。非公開会社で取締役会が設置されている場合には、総株主の議決権(当該議題について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は除きます。)の100分の1(1%)以上の議決権又は300個以上の議決権を有する株主の少数株主権とされます。他方、公開会社(当然に取締役会が設置されている会社となります。)の場合には、上記の議決権数の要件に加え、その議決権を6か月前から有しているという保有期間の要件も充足する必要があります。
㋑議案提案権は、取締役会設置の有無を問わず、単独株主権として、1株でも保有する株主であれば、自己が議決権を行使できる議題に対して行使することができます。
②株主の議案通知請求権とは?
「議案通知請求権」とは、株主が取締役に対し、株主総会の日の8週間前までに、株主総会の目的である事項につき、当該株主が提出しようとする議案の要領(株主総会の議題に関し、株主が提案する解決案の基本的内容について、会社及び一般株主が理解できる程度の記載)を株主に通知することを請求できる権利のことです(会社法305条1項)。
議案通知請求権は、非公開会社で取締役会が設置されていない場合には、単独株主権となります。非公開会社で取締役会が設置されている場合には、総株主の議決権の100分の1(1%)以上又は300個以上の議決権を有する株主の少数株主権とされます。他方、公開会社(当然に取締役会が設置されている会社となります。)の場合には、上記の議決権数の要件に加え、その議決権を6か月前から有しているという保有期間の要件も充足する必要があります。
③総会検査役選任請求権とは?
「株主総会検査役選任請求権」とは、株主総会を開催したものの、招集手続や決議方法に問題がある場合には、決議後に株主総会決議取消の訴えや、株主総会決議の無効・不存在確認の訴えが提起される可能性があることから、このような紛争を事前に防止するため、あるいは、紛争になった場合のために証拠を保全するために、一定の株主及び会社に、株主総会に先立ち、裁判所に対する株主総会についての検査役選任の申立てと、検査役に裁判所に対して報告をさせる権利のことです(会社法306条)。なお、検査役には弁護士等の専門家が選任されることが一般的です。
株主総会検査役選任請求権は、非公開会社の場合には、総株主の議決権の100分の1(1%)以上の議決権を有する株主の少数株主権となります。
他方、公開会社(当然に取締役会が設置されている会社となります。)の場合には、上記の議決権数の要件に加え、その議決権を6か月前から有しているという保有期間の要件も充足する必要があります。
なお、複数の株主が株主総会検査役選任請求権を共同行使する場合には、複数の株主で議決権数の要件を満たせば足りると解されています。
④最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え(多重代表訴訟)とは?
「多重代表訴訟」とは、親会社の株主の保護のため、一定の範囲で、親会社の株主に子会社の役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人のことをいいます。)の子会社に対する責任を追及する代表訴訟を認めるものです(会社法847条の3)。
同制度は、子会社の役員等が子会社に対して任務懈怠責任等を負う場合、親会社は子会社の株主として、株主代表訴訟(個々の株主に、会社のために役員等の責任追及等の訴えを提起することを認めるものです。会社法847条)によって子会社の役員等の責任を追及することができますが、その場合に親会社を代表するのは親会社の代表機関であり、親会社と子会社の役員等の間の人間関係によって、親会社が子会社の役員等の責任を追及することを怠るおそれがあることから、親会社の株主の保護のために認められた制度です。
多重代表訴訟は、非公開会社の場合には、最終完全親会社等の株主が、最終完全親会社等の総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の100分の1(1%)以上の議決権を有する株主又は最終完全親会社等の発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の1(1%)以上の数の株式を有する株主に認められる少数株主権とされます。他方、公開会社の場合には、上記の議決権数ないし株式数の要件に加え、その議決権ないし株式を6か月前から有しているという保有期間の要件も充足する必要があります。
なお、複数の株主が多重代表訴訟を共同で提起する場合には、複数の株主で議決権数ないし株式数の要件を満たせば足りると解されています。
~補足~
⑤計算書類閲覧請求権とは?
「計算書類閲覧請求権」とは、会社は、計算書類をその本店に備え置かなければならない(会社法442条1項)ところ、株式を1株でも保有している株主は、会社の営業時間内に、いつでも、計算書類の閲覧を請求することができるという権利です(会社法442条3項)。
上記の「計算書類」とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表により構成される、いわゆる財務諸表を指します(会社法435条2項、会社計算規則59条1項)。
計算書類閲覧請求権は、株式を1株でも保有していれば、定款の定めあるいは株主総会の決議をもってしても奪うことができない権利です。
⑥会計帳簿閲覧請求権とは?
「会計帳簿閲覧請求権」とは、会社は、会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、保存しなければならない(会社法432条2項)ところ、総株主の議決権の100分の3(3%)以上の議決権又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3(3%)以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内に、いつでも、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧を請求することができるとする少数株主権です(会社法433条1項)。
上記の「会計帳簿」とは、通常は仕訳帳(日々の取引を発生順に借方と貸方に仕分けしたもの)、総勘定元帳(仕訳帳を転記して勘定科目ごとに全ての取引を記帳したもの)、補助簿(ex.現金出納帳、売上帳、仕入帳、売掛金元帳、買掛金元帳)を指します。
上記の「これに関する書類」とは、会計帳簿作成にあたって直接の資料になった書類、その他会計帳簿を実質的に補充する書類(ex.伝票、領収書、契約書)を意味すると考えられています。
なお、複数の株主が会計帳簿閲覧請求権を共同行使する場合には、複数の株主で議決権数ないし株式数の要件を満たせば足りると解されています。
もっとも、会計帳簿閲覧請求権が行使されると、会社業務の円滑な執行を阻害する危険や、企業秘密が漏洩する危険があることから、一定の拒絶事由に該当する場合、すなわち、㋐株主がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求したとき、㋑株主が会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求したとき、㋒株主が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み又はこれに従事するものであるとき、㋓株主が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき、㋔株主が過去2年以内に会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるときは、会社は株主からの閲覧請求を拒むことができるとされています(会社法433条2項)。
そして、上記の拒絶事由が存在するか否かや、閲覧させるべき会計帳簿又はこれに関する資料の範囲に関する判断を会社が行うことを容易にするため、株主が会計帳簿閲覧請求を行う際には、閲覧目的及び閲覧させるべき会計帳簿又はこれに関する資料の範囲を会社が認識することができる程度に具体的に示すことにより、当該請求の理由を明らかにしなければなりません。
⑦株主総会議事録閲覧請求権とは?
「株主総会議事録閲覧請求権」とは、株主総会が開催された場合には、株主総会の議事の経過及び成立した決議又は決議案の否決の事実その他株主総会の議事運営に関連する事項を記載した議事録を作成しなければならず、会社は、株主総会の日から10年間、議事録をその本店に備え置かなければならない(会社法318条2項)ところ、株式を1株でも保有している株主は、会社の営業時間内に、いつでも、株主総会議事録の閲覧を請求することができるという権利です(会社法318条4項)。
閲覧できる内容としては、株主総会が開催された日時及び場所、株主総会の議事の経過の要領及びその結果、株主総会において述べられた意見又は発言の内容の概要、出席した取締役等の氏名又は名称、議長の氏名、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名等が挙げられます(会社法施行規則72条3項各号)。
もっとも、株主が、株主総会議事録の閲覧請求権を行使するに際しては、株主としての地位に基づく正当な理由によることが必要であり、株主総会議事録の閲覧請求権の行使が不当な場合には、会社は閲覧請求を拒むことができます。
⑧取締役会議事録閲覧請求権とは?
「取締役会議事録閲覧請求権」とは、取締役会が開催された場合には、取締役会の議事の経過の要領とその結果を記載した議事録を作成しなければならず、会社は、取締役会の日から10年間、議事録をその本店に備え置かなければならない(会社法371条1項)ところ、株式を1株でも保有している株主は、その権利を行使するため必要があるときは、会社の営業時間内に、いつでも、取締役会議事録の閲覧を請求することができるという権利です(会社法371条2項)。
もっとも、業務監査権限を有する監査役がいる会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社の株主は、その権利を行使するため必要がある場合においても、裁判所の許可を得てはじめて、議事録等の閲覧等の請求をすることができます(会社法371条3項)。
閲覧できる内容としては、取締役会が開催された日時及び場所、取締役会の議事の経過の要領及びその結果、取締役会において述べられた意見又は発言の内容の概要、出席した株主等の氏名又は名称、議長の氏名等が挙げられます(会社法施行規則101条3項各号)。
上記の「権利を行使するため必要があるとき」とは、株主としての全ての権利行使を意味すると解されており、議決権や株主提案権を行使するために必要な場合や、取締役の責任追及をするために必要な場合のほか、株式買取請求権を行使するために必要な場合にも請求することができるとされています。
⑨定款閲覧請求権とは?
「定款閲覧請求権」とは、原則として、会社は本店及び支店に定款を備え置かなければならない(会社法31条1項)ところ、株式を1株でも保有している株主は、株式会社の営業時間内に、いつでも、定款を閲覧することができるという権利のことです(会社法31条2項)。なお、会社法には、会社が定款閲覧請求を拒むことのできる事由は定められていません。
定款には、必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)として、㋐会社の目的、㋑商号、㋒本店の所在地、㋓設立に際して出資される財産の価額又はその最低額、㋔発起人の氏名・名称及び住所、㋕発行可能株式総数があります。また、定款に記載することは必須ではないものの、定款に記載しなければ効力が認められない事項(相対的記載事項)もあり、例えば、株式の譲渡制限に関する定めや、株券発行の定め等が挙げられます。さらに、株主総会決議や取締役会により制定する規則等により定めても効力が生じるものの、当該事項を明確にする等の目的で定款に規定されている事項(任意的記載事項)もあります。
⑩株主名簿閲覧請求権とは?
「株主名簿閲覧請求権」とは、会社は、株主名簿をその本店に備え置かなければならない(会社法125条1項)ところ、株式を1株でも保有している株主は、会社の営業時間内に、いつでも、株主名簿を閲覧することができるという権利のことです(会社法125条2項)。閲覧できる内容としては、株主の氏名又は名称、住所、持株数、株式の種類、取得日等が挙げられます。
もっとも、株主名簿閲覧請求は、株主が株主としての資格と離れた個人的な利益のために行使すべきではないことから、一定の拒絶事由に該当する場合、すなわち、㋐請求者が権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき、㋑請求者が会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき、㋒請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき、㋓請求者が閲覧等によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するために請求を行ったとき、㋔請求者が、過去2年以内に、閲覧等によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるときは、会社は株主からの閲覧請求を拒むことができるとされています(会社法125条3項)。
そして、上記の拒絶事由が存在するか否かの判断を会社が行うことを容易にするため、株主が株主総会名簿閲覧請求を行う際には、具体的な閲覧の目的を掲げることにより、当該請求の理由を明らかにしなければなりません。
⑪業務財産検査役選任請求権とは?
「業務財産検査役選任請求権」とは、株主が、会社の業務執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることが疑われる場合に、会社の業務及び財産の状況を調査せるために、裁判所に対して、検査役の選任を申立て、その報告をさせるという制度です(会社法358条1項)
業務財産検査役選任請求権は、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除きます。)の議決権の100分の3(3%)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3(3%)以上の数の株式を有する株主の少数株主権とされます。なお、上記の議決権数ないし株式数の要件は、申立て後も維持される必要があります。
⑫役員・清算人の解任の訴え(申立て)とは?
役員の解任の訴えの提起権は、非公開会社の場合には、総株主の議決権の100分の3(3%)以上の株式を有する株主又は発行済株式の100分の3(3%)以上の株式を有する株主において、株主総会の日から30日以内に訴えをもって当該役員の解任を請求することができるとする少数株主権とされます。他方、公開会社の場合には、上記の議決権数ないし株式数の要件に加え、その議決権ないし株式を6か月前から有しているという保有期間の要件も充足する必要があります。
清算人の解任の申立ては、非公開会社の場合には、総株主の議決権の100分の3(3%)以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3(3%)以上の株式を有する株主の少数株主権とされます。他方、公開会社の場合には、上記の議決権数ないし株式数の要件に加え、その議決権ないし株式を6か月前から有しているという保有期間の要件も充足する必要があります。
なお、「清算人」とは、会社の法人格の消滅前に、会社の現務を結了し、債権を取り立て、債権者に対して債務を弁済し、株主に対して残余財産を分配する等の清算手続きを行う者のことです(会社法477条1項)。
⑬役員等の責任免除に対する異議権とは?
「役員等の責任免除に対する異議権」とは、取締役が2人以上あり、かつ、監査役設置会社である会社においては、定款の定めに従い、取締役会が設置されている場合には取締役会の決議により、取締役会が設置されていない場合には取締役の過半数の同意によって、一定額を限度として取締役の責任を免除することができるところ、取締役会ないし取締役による責任免除の決定に対して株主が異議を述べたときは、その責任を免除することができないとする権利です(会社法426条7項)。
役員等の責任免除に対する異議権は、総株主の議決権の100分の3(3%)以上の議決権を有する株主の少数株主権とされます。
⑭株主総会招集権とは?
「株主総会招集権」とは、原則として株主総会は、取締役会が設置されている場合には、取締役会の決定に基づいて代表取締役が招集し(会社法296条3項、298条4項)、取締役会が設置されていない場合には、取締役が招集する(会社法296条3項、298条1項)ところ、取締役が株主総会の開催を怠ることがあり得るあることから、株主においても株主総会の招集権を認めるものです(会社法297条)。
株主総会招集権は、非公開会社の場合には、総株主の議決権(招集する株主総会の目的事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権を除きます。)の100分の3(3%)以上の議決権を有する株主の少数株主権とされます。他方、公開会社の場合には、上記の議決権数の要件に加え、その議決権を6か月前から有しているという保有期間の要件も充足する必要があります。なお、複数の株主が株主総会招集権を共同行使する場合には、複数の株主で議決権数の要件を満たせば足りると解されています。
⑮会社の解散請求権とは?
「会社の解散請求権」とは、㋐会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、会社に回復することができない損害が生じ又は生ずるおそれがあるとき、又は、㋑会社の財産の管理又は処分が著しく失当で、会社の存立を危うくするときであり、かつ、㋒やむを得ない事由があるときに、株主が会社の解散を請求することができる権利です(会社法833条1項)。
会社の解散請求権は、総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式を除きます。)の議決権の10分の1(10%)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除きます。)の10分の1(10%)以上の数の株式を有する株主の少数株主権とされます。
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