相談者の叔父が創業した電気器具製造販売会社。相談者グループは発行済み株式の約15%にあたる9000株を父から相続し保有していた。会社経営は叔父の長男(相談者のいとこ)が承継した。相談者は会社経営には全くタッチしておらず、会社に対し保有株式を買い取ってもらいたいと考えていた。
相談者は自分で会社の代表取締役に対し、1株1万円で買い取ってほしいと申し入れたが、代表取締役は1株2000円未満で買い取ると回答。
相談者はその後の交渉方法がわからず、当事務所に相談するに至った。
西日本で電気器具製造販売業等を営んでおり、売上高は25億円超。
総資産は約70億円、経常利益は約2億円、配当は1株当たり15円。
業種 | 西日本の電気器具製造販売業等 |
規模 | 売上高 25億円超 総資産 約70億円 経常利益 約2億円 配当 1株当たり15円 |
現在の代表取締役のファミリーが約85パーセントの株式を保有し、相談者グループは約15%の株式を保有している。
相談者は会社から毎年株主総会前に決算書の送付を受けていたため、当事務所は受任後に配当還元価格、純資産価格、収益還元価格を概算で算出し、併せて類似のケースにおける株価決定事件の判例を調査し、適正価格について一定のレンジを相談者に示した。
配当還元価格は1株当たり約160円、純資産価格は1株当たり約1万1000円、収益還元価格は1株当たり約3000円、類似業種比準価格は1株当たり約2000円であった。
また、同種事案の判例には、配当還元価格を50%、純資産価格を30%、収益還元価格を20%程度の割合で併用するというものがあった。
当事務所の試算では、1株当たりの株価のレンジは3000円~6000円であった。
当事務所の受任前に会社が相談者に提示した株価(1株2000円未満)は「類似業種比準価格」であることがわかった。
当事務所は相談者らの代理人として会社の代表取締役社長に直接面会し、面談の席上で非上場会社の株価算定方式(4種類)についての簡単な説明資料を交付しながら、適正な株価を算定する必要性を説き、株価算定に必要な各種財務資料の提供を求め、同時に、専門家同士の協議を求めた。そして、これに応じない場合は第三者への株式売却を検討する旨を予告してその場を辞去した。
その数日後、会社側から相談者に対し買取価格の打診があった。
その額は会社側が当初提示した額の3倍弱の1株5000円であった。当事務所と相談者とで協議した結果、相談者はこれを受け入れることとし、約5億円で株式を会社に売却することが決定した。
それから約2か月後に株式譲渡契約を締結し、同時に代金決済をした。
本件は、純資産価額(1株1万1000円)には達しなかったものの、当初会社側提示の類似業種比準価格(1株2000円未満)の3倍弱の1株5000円で売却することができた。
3か月という短期間の交渉でこの価格での解決に至ったポイントは、
①相談者が一定期間の決算書を保有していたことから、受任直後に株価の概算の算定ができたこと/p>
②受任直後に代理人弁護士として会社代表者と直接面談し、正しい株価評価の必要性を説き一定の財務資料の交付を求め、専門家同士の公正な交渉を要求したこと
③これにより会社代表者は、もしも妥当なラインでの金額交渉に応じなければ本当に株式が第三者の手に渡ると考えた(そのように当方が仕向けた)こと
が考えられます。