相続税評価額が高く、将来の多額の相続税負担が危惧された株式を売却した事例

※ 弁護士の守秘義務及び、日本弁護士連合会「弁護士等の業務広告に関する規程」第四条第四号にしたがい、掲載にあたり依頼者が特定できないよう、また依頼者の利益を損うおそれがないよう実際の事例を一部加工しております。
   

事例の概要

 父親が創業した会社につき長男が後継者となって、長男とその家族が株式の多数を保有して経営を行っていたが、経営に参画していない二男においても割合的に少数ながら株式を有していた。
 しかしながら、二男の将来の相続時には、二男が保有する株式の相続税評価額(原則的評価)が高額となるため、納税面で不安を抱える二男一家が、保有する株式全部を売却することを希望し、当事務所に相談するに至った。

会社の概要

業種 サービス業
規模 資本金     5000万円以下
純資産     30億円以上50億円以下
年間売上高   3億円以上5億円以下
年間税引後利益 1億円以下
配当      実施せず

株主の状況、株主構成

依頼者(二男)が20%の株式を保有している。
長男一家は80%の株式を保有している。

交渉の経過と解決結果

(1)当事務所に依頼する前、二男は長男に株式の買取を打診したところ、6000万円程度であれば買取可能との返答であった。

(2)当事務所は、株式の時価評価額を算定するため会計帳簿の閲覧請求をし、取得した会計帳簿を基に時価算定をおこなった。
 当事務所による株式評価額は、純資産方式による評価額約4億円、DCF方式による評価額約5億円、配当還元方式による評価額約1億円であった。
 このことから、およそ2億4000万円(純資産方式、DCF方式、配当還元方式が2:2:6)から1億7000万円(純資産方式、DCF方式、配当還元方式が1:1:8)程度が適正な価格であると判断された。

(3)当事務所は、会社側に売買の打診を行う一方、第三者の買主を探索し、買取に興味を示した投資ファンドとの間で売却のための折衝をおこなった。

(4)長男は、二男の株式を買い取らなくても経営支配権は盤石であり、経営上痛痒はないとの態度を貫いていたが、内心はファンドが買い取ることは望まず、買取可能額については従前の提示より約1億円増加する回答を当事務所におこなったため、長男が提示する金額で売却を合意した。

(5)以上より、依頼人は、納得できる金額で売却できたことにより、非上場株式を保有し続けた場合における将来の相続税納税の負担の心配からは解放されることとなり一件落着した。

戦い終えた担当弁護士のひと言

 本件は会社法第136条に基づく株式譲渡承認請求手続にもちこめば、長男は譲渡を承認せず、価格決定の商事非訟に持ち込める蓋然性の高いケースでした。
 その場合、2億円前後程度で決着する見込みがありました。そのため、長男は、従前提示より1億円増加の回答を行ってきたのです。二男としては、これを蹴って商事非訟手続に持ち込む選択肢もありましたが、これを望まず、上述の結果となりました。長男が当初のオファーから大幅増額したのは商事非訟手続が頭にあったからであり、長男にこの手続きを意識させたことが勝負を決しました。



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