劣後株式を会社側に支配株式として売却できた事例

※ 弁護士の守秘義務及び、日本弁護士連合会「弁護士等の業務広告に関する規程」第四条第四号にしたがい、掲載にあたり依頼者が特定できないよう、また依頼者の利益を損うおそれがないよう実際の事例を一部加工しております。
   

事例の概要

 父親から引き継いだ対象会社につき、長男と二男による経営が行われていたが、経営方針の違いから対立するようになり、二男は経営の分離、独立を考えるようになった。
二男は、独立にあたっての条件交渉を長男に申し入れたが、長男は言を左右にして話し合いに応じようとはしなかった。
 そこで、二男は当事務所に相談するに至った。

会社の概要

業種 不動産賃貸業
規模 純資産  8億~10億円
年商   3~5億円
利益   2~3億円
配当   一株あたり20~30円である。

株主の状況、株主構成

長男、二男ともに約3割程度の株式を保有しているが、その多くが劣後株式である。

交渉の経過と解決結果

(1) 長男は、簿価純資産価格である約2億円のオファーをしてきた。当方は、対象会社が不動産を多数所有していることから、不動産の鑑定を行った上、時価純資産価格により評価すべきであり、15~20億円が適正な株式評価であると主張し、さらに長男と交渉を重ねたが、双方の株価評価の開きが大きく、交渉継続は困難であった。
 そこで、当方は、第三者の買主を選定し、会社法136条に基づき、株式の譲渡承認請求及び譲渡を承認しない場合には買受人を指定するよう請求した。

 会社(長男)は、依頼者の譲渡を承認せず、買受人として、長男を指定した。
 買受人のオファー額約3~4億円と当方申出額15~20億円との売買価格についての交渉は不調に終わったため、当方が会社法144条2項に基づき、裁判所に株式売買価格決定の申し立てを行った。

(2) 株式売買価格決定の裁判手続きにおける主な争点は、対象株式を支配株式として評価すべきか否か、並びに劣後株式の評価方法であった。
 会社側(長男)は、①対象株式は少数株式であることから、支配株式として評価すべきではないと主張した。
 これに対し当方は、対象会社は、いずれも長男と二男が共同で経営を行ってきたものであり、本件は共同経営の解消事案であること、②長男が対象株式を取得することにより、長男が完全支配権を取得することになるのであるから、支配株式として評価すべきであると主張した。
 その後、裁判所による不動産鑑及び株価の公的鑑定が行われたが、株価鑑定において対象株式を支配株式として評価すべきであるとされた。
 劣後株式についてもほぼ普通株式の評価額と変わらない評価額が採用された。

(3)以上により、依頼者は、会社側の当初のオファー額の4倍、会社側の裁判での主張価額のおよそ2倍の額である約8億円での売却が実現した。

戦い終えた担当弁護士のひと言

 本件では、会社側(長男)と当方依頼者との感情的な対立が激しく、長男との交渉で当方依頼者の求める金額での妥結は不可能であり、会社法144条2項の売買価格決定の商事非訟手続に持ち込んだことが、依頼者の満足する結果となりました。

 商事非訟手続では、劣後株式の評価方法という一般的ではない論点もあり、普通株式に比べ相当低額な鑑定結果が出されるおそれもありましたが、結果的には、普通株式と大差ないという鑑定結果を得ることができたことから、会社側の主張額を大幅に上回る額での売却が実現できました。



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