対象会社の取締役である依頼者は、対象会社の子会社からの借入金により、対象会社の株式を売買により取得し保有していたが、新会社を設立し独立することになった。
そこで、会社側は、貸付金の返済と依頼者が保有する株式を直近の売買事例価格により譲渡することを求めてきた。会社側は貸付金の返還を求め、依頼者の保有株式に仮差押えをする動きがあったことから、依頼者は当事務所に相談するに至った。
業種 | 機械部品加工業 |
規模 |
資本金 1億円~5億円 純資産 20億円以上 売上高 20億円以上 利益 5000万円以上 配当 1株あたり500円~1000円 |
依頼者が約15%の株式を保有している。
現経営者が約30%の株式を保有している。
(1)会社側(対象会社の子会社)は、依頼者に対する貸金返還請求訴訟を提起した。
(2)裁判所は和解協議を勧め、会社側に和解案の提出を求めた。会社側は、直近の売買事例の株価で依頼者の保有する株式を評価した額により貸付金の一部支払いに充て、残額を依頼者が支払うとの和解案を提示した。しかし、会社側の主張する直近の売買事例価格1株約300円では、依頼者が保有する株式すべてを返済に充当するとしてもさらに3000万円以上の支払いが必要となるため、応じられなかった。
当方は、取締役であった依頼者が保有する株式と会社側の主張する取引事例における一般株主における売買事例とは異なることを強調した。その上で、依頼者の保有する株式は、フリー・キャッシュ・フロー方式による価額一株あたり約400円と類似会社比準方式による価額一株あたり約500円を1:1の割合により併用し、一株あたり約450円が妥当であると主張した。
その結果、会社側から、①依頼者の保有株式を、依頼者の借入金残額約3億円を依頼者の保有株式で割った額である一株あたり約350円として評価し、借入金全額(約3億円)を保有株式をもって代物弁済する、②未払いであった配当金約1200万円を会社が依頼者に支払うとの提案がなされた。当方は、上記提案額を下回るものの、フリー・キャッシュ・フロー方式による評価に比較近似していることから会社側の提案を受け入れることとし、上記内容による和解が成立した。
(3)以上の経緯により、依頼者は、会社側の不当な請求(3000万円以上)を免れたのみならず未払い配当金約1200万円の支払いを受けることができたものであり、結果的に満足のいく内容であった。
非上場株式の売買においては、過去の取引事例による価格が主張されることがあります。
しかし、取引事例は、①取引事例と取引量が同程度である場合、②比較的直近の取引事例である場合、③取引事例が独立した第三者間で行われた場合に限り採用され得るものです。
本件では、依頼者は取締役の地位にあり、保有株数においても過去の一般株主における取引事例は当てはまらないことを主張したことが、取引事例による価格を10%以上上回る株価による精算という結果になりました。