売却手続きの流れの概略を図示すると次のとおりとなります。
(1)譲渡制限株式の発行会社の情報を集める
譲渡制限株式の売却を検討するにあたっては、①そもそも自分が株式を何株保有しているのか、②保有している株式には譲渡制限が付されているのか、③株券が発行されているのかを確認するとともに、④会社の資産、⑤会社の利益、⑥会社の財務状況、⑦主な取引先や株主構成等の情報を収集する必要があります。これらの情報がなければ、当該株式の正確な価値を判断することが困難です。したがって、まずは譲渡制限株式の発行会社の情報を集めることが出発点となります。
①会社の登記簿謄本を法務局で取得する。
②会社の定款を確認する。
③株主総会に出席する。
④株主名簿を確認する。
⑤株主総会議事録を確認する。
⑥会計帳簿を確認する。
⑦計算書類を確認する。
などがあります。
① 会社の登記簿謄本を法務局で取得する
会社の登記簿謄本は法務局で誰でも取得できます。「第1 非上場株式に関する基礎知識 1用語の説明(2)譲渡制限株式とは?」においても説明したように、会社の登記簿謄本によって、ご自身が株式を保有する会社が譲渡制限を付しているのか、株券を発行しているのか、発行済株式は全部で何株なのかを確認することができます。
② 会社の定款を確認する
定款は、会社の組織と運営に関する事項を定める根本規則であり、会社は定款により会社の組織や、会社と株主との間又は株主相互間の法律関係を定めることができ、株式に譲渡制限を設ける際にも定款にその旨の記載がなされます。そのため、会社の定款を確認することが重要であることは言うまでもありません。
会社の定款を確認するために少数株主が利用できる手段としては、「第1 非上場株式に関する基礎知識 1用語の説明(7) 少数株主の主な権利とは?⑨定款閲覧請求権とは?」においても説明した「定款閲覧請求権」があります。
会社法には、会社が定款閲覧請求を拒むことのできる事由は定められていないため、株式を1株でも保有している株主は、会社の営業時間内に、いつでも、定款を閲覧することができます。
③ 株主総会に出席する
定時株主総会は、毎事業年度の終了後、一定の時期に招集しなければなりません(会社法296条1項)。
定時株主総会の内容としては、当該年度の事業について報告事項と、株主が経営に関する重要事項を決定する決議事項の2つがあります。
非公開会社の場合、株主総会を実施する際には、株主総会の日の1週間前までに株主総会の招集通知を送る必要があります(会社法299条1項)。招集通知は、株主に総会出席の機会を与えるだけでなく、議事・議決に参加する準備の機会を与えるために行われるものであることから、株主総会の日時・場所、決議する議案に関する情報だけでなく、会社の事業の業績、財務状況、対処すべき課題、関連会社の情報、従業員の情報、株主構成、役員に関する情報等の会社に関する重要な情報を記載した資料も提供されます。
もっとも、招集通知の内容を確認するだけではなく、株主総会に参加して、直接に説明を受けることにより、資料だけからは読み取ることができない情報を入手することができたり、経営者の考えを知ることができるため、実際に株主総会に出席することは会社の情報を集めることができる重要な機会となります。
④ 株主名簿を確認する
既存株主は有力な買手候補となり得ることから、買手としては、自身が将来的に株式を売却して投下資本を回収することができるか否かを検討するためにも、会社の株主構成に関する情報の開示を求めることがあります。
会社の株主構成を確認するために少数株主が利用できる手段としては、「第1 非上場株式に関する基礎知識 1用語の説明(7)少数株主の主な権利とは?⑩株主名簿閲覧請求権とは?」においても説明した「株主名簿閲覧請求権」があります。
株主名簿閲覧請求は、株主が株主としての資格と離れた個人的な利益のために行使すべきではないことから、一定の拒絶事由に該当する場合(拒絶事由の詳細については、「第1 非上場株式に関する基礎知識 1用語の説明(7)少数株主の主な権利とは?⑩株主名簿閲覧請求権とは?」をご参照下さい。)には、会社は株主からの閲覧請求を拒むことができるとされているところ、上記の拒絶事由が存在するか否かの判断を会社が行うことを容易にするため、株主が株主名簿閲覧請求を行う際には、具体的な閲覧の目的を掲げることにより、当該請求の理由を明らかにしなければなりません。
株式を譲渡しようとする株主が、株式の適正な価格を算定するために株主名簿閲覧請求権を行使することは、正当な権利行使として認められ、上記の拒絶事由には該当しません。
仮に会社が株主名簿の閲覧請求を拒絶する場合には、株主は、株主名簿の閲覧を求める訴訟を提起して閲覧することができます。また、株主名簿を閲覧することにより、株式の適正な価格を算定することによる株主の利益を保障する緊急切実な保全の必要性と、会社が仮処分により被る不利益を比較衡量し、株主に株主名簿を閲覧させてもやむを得ないと認められる程度に保全の必要性が大きい場合には、株主名簿の閲覧を認める仮処分によって直ちに閲覧できます。
⑤ 株主総会議事録を確認する
上記③で前述したように、株主総会は会社の情報を集めることができる重要な機会であるところ、株主総会の内容については、その結果も含めて、議事録を作成しなければならず、その議事録を確認するために少数株主が利用できる手段としては、「第1 非上場株式に関する基礎知識 1用語の説明(7)少数株主の主な権利とは?⑦株主総会議事録閲覧請求権とは?」においても説明した「株主総会議事録閲覧請求権」があります。
株主が、株主総会議事録の閲覧請求権を行使するに際しては、株主としての地位に基づく正当な理由によることが必要と考えられますが、株式を譲渡しようとする株主が、株式の適正な価格を算定するために株主総会議事録閲覧請求をすることは、正当な理由として認められます。
会社の財務状況が分からなければ、売却の見通しを立てることや株式の適正な価格の算定ができないため、会社の財務状況を確認することは重要です。
会社の財務状況を確認するために少数株主が利用できる手段としては、「第1 非上場株式に関する基礎知識 1用語の説明(7)少数株主の主な権利とは?⑥会計帳簿閲覧請求権とは?」においても説明した「会計帳簿閲覧請求権」があります。
会計帳簿閲覧請求権が行使されると、会社業務の円滑な執行を阻害する危険や、企業秘密が漏洩する危険があることから、一定の拒絶事由に該当する場合(拒絶事由の詳細については、「第1 非上場株式に関する基礎知識 1用語の説明(7)少数株主の主な権利とは? ⑥会計帳簿閲覧請求権とは?」をご参照下さい。)には、会社は株主からの閲覧請求を拒むことができるとされているところ、上記の拒絶事由が存在するか否かや、閲覧させるべき会計帳簿又はこれに関する資料の範囲に関する判断を会社が行うことを容易にするため、株主が会計帳簿閲覧請求を行う際には、閲覧目的及び閲覧させるべき会計帳簿又はこれに関する資料の範囲を会社が認識することができる程度に具体的に示すことにより、当該請求の理由を明らかにしなければなりません。
株式を譲渡しようとする株主が、株式の適正な価格を算定するために会計帳簿閲覧請求権を行使することは、特段の事情のない限り、正当な権利行使として認められ、拒絶事由には該当しません(最判平成16年7月1日)。
上記の「最判平成16年7月1日判決」(以下、「本判決」といいます。)は、弁護士法人朝日中央綜合法律事務所が受任した案件において勝ち取った判決であり、数多くの非上場株式の売却に関する実績の内の1つです。
本判決の原審(東京高裁平成15年3月12日)は、譲渡制限株式を譲渡しようとする株主が株式の適正な価格を算定する目的でした会計帳簿閲覧請求は、株主の地位を離れた純粋に個人的な目的でされたものであり、「株主がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき」という拒絶事由(会社法433条2項1号)に該当するとして、会計帳簿閲覧請求を棄却しました。
しかし、本判決は、非公開会社において譲渡制限株式の売却をしようとするときには、会社の資産状態を示す会計帳簿の閲覧をすることが不可欠であるとして、非公開会社における株式売却のための株式の適正な価格を算定する目的でする会計帳簿の閲覧請求は、株主の権利行使のために行われたものである(拒絶事由には該当しない)との判断を示しました。
本判決は、最高裁として初めて、非上場会社における株式売却のための株式の適正な価格を算定する目的でする会計帳簿の閲覧請求が拒絶事由に該当しないことを明らかにしたものです。非上場会社の株主が非上場株式を売却しようとすれば、その株式の評価をしなければならず、そのためには、会計帳簿を閲覧することが必要不可欠であるため、非上場会社における株式売却のための株式の適正な価格を算定する目的でする会計帳簿の閲覧請求が拒絶事由に該当しないことは論理必然ですが、本判決以前の裁判実務判例では拒絶事由に該当すると理解され、運用されていました。
これは、いわゆる総会屋などが、会計帳簿閲覧請求権を濫用して行使しようとすることが実態として存在したことから、裁判所がこれに過剰な反応を示したことにより、上記のような裁判実務の理解・運用になっていました。
しかし、上記のような裁判実務の理解・運用は、会計帳簿閲覧請求権の趣旨を逆立ちにするものであることが明らかでした。そこで、上記のような我国の裁判実務の理解・運用を、本来あるべき理解・運用に正常化するため、当事務所は、我国の会計帳簿閲覧請求権の淵源であり、同趣旨の規定のあるアメリカ合衆国各州における膨大な判例を調査しました。その結果、アメリカ合衆国各州においては、株主がその株式の価値を評価するために会計帳簿を閲覧することは当然の権利であるとされていました。そして、当事務所は、アメリカ合衆国各州において上記のような裁判実務の理解・運用がなされていることを完全に立証したところ、最高裁判例の新判例を獲得するに至り、我国の裁判実務を本来あるべき理解・運用へと導くことができ、以後、本判決に従って会社実務も運用されるに至りました。なお、本判決は、今日、法律・経済・商学等を学ぶ学生にとっても必修の判例となっており、各種資格試験においても頻出の問題となっています。
以上のように、本判決は我国の会社実務にとって、計り知れない程の大きな影響を与えており、非常に重大な意味を持っています。
仮に会社が会計帳簿の閲覧請求を拒絶する場合には、株主は、会計帳簿の閲覧を求める訴訟を提起して閲覧することができます。また、会社が会計帳簿を破棄・隠匿・改ざんするおそれがある場合には、証拠保全手続きにより、裁判所の検証を受け又はその記載をそのまま謄写し、証拠書類として裁判所の保全しておくことができます。さらに、会計帳簿を閲覧することにより、株式の適正な価格を算定することによる株主の利益を保障する緊急切実な保全の必要性と、会社が仮処分により被る不利益を比較衡量し、株主に会計帳簿を閲覧させてもやむを得ないと認められる程度に保全の必要性が大きい場合には、会計帳簿の閲覧を認める仮処分によって直ちに閲覧できます。
⑦ 計算書類を確認する
前述したように、会社の財務状況を確認することは重要であるところ、会社の財務状況を確認するために少数株主が利用できる手段としては、「第1 非上場株式に関する基礎知識第 1用語の説明(7)少数株主の主な権利とは? ⑤計算書類閲覧請求権とは?」においても説明した「計算書類閲覧請求権」があります。
計算書類閲覧請求権は、株式を1株でも保有していれば、会社の営業時間内に、いつでも、計算書類の閲覧を請求することができ、会社はこれを拒絶することはできません。
(2)買手を探す
買手の主な候補としては、①当該株式の発行会社、②当該株式の発行会社の経営者、③当該株式の発行会社の主要株主、④当該株式の発行会社の同業他社、⑤当該株式を取得することにより企業価値が増大する事業会社、⑥プライベート・エクイティファンド(非上場株式を投資対象としたファンド)、⑦個人投資家などが存在します。
そもそも会社が株式に譲渡制限を設ける理由には、既存の株主間における個人的な信頼関係が重視され、会社にとって好ましくない者が株主となることを防止することが挙げられるため、非上場会社は見知らぬ第三者に自社の株式を保有されることを嫌がる傾向があります。そのため、発行会社側において、第三者に株式を保有されるよりは発行会社側で株式を買い取った方が良いと判断することがあり、発行会社側は買手の候補となります。株主としても、まずは、当該株式の発行会社側に株式の買取りを打診することが通常です。
しかし、発行会社側は、株式の買取りを拒否するとか、買い取るとしても、額面又はこれに類する非常識な価額でしか買い取ろうとしないのが一般です。また、当該株式の買取りを希望する具体的な第三者が存在しない時点においては、発行会社側としても株式の買取りに応じる必要性を真摯に検討しない場合があります。
したがって、非上場会社の株式の売却を検討するにあたっては、下記の④ないし⑦のような発行会社側以外の第三者の中から、当該株式を正当な価格で買い取ってくれる者を探し出すことがより重要となります。そのような第三者の買手があって初めて発行会社側は適正な価格で買取りを検討し始めるのが通常です。そして、最適な第三者の買手を見つけるためには、買手となり得る者の情報を最も豊富に有し、それらと取引実績に基づく関係を築いている専門家に相談することが必須です。
当該株式の発行会社の同業他社は、当該株式の発行会社の株式を取得することにより、資本提携ないし業務提携を図り、あるいは、当該株式の発行会社の保有する重要な情報(顧客情報、経営計画など)・ノウハウなどを獲得し、業績拡大を図ろうとする場合があります。
したがって、当該株式の発行会社の同業他社は有力な買手候補となります。
当該株式の発行会社と既存の取引がある、あるいは、これから取引を始めたい会社などにおいては、発行会社との資本提携ないし業務提携の一環として、発行会社の株式の取得を希望し、企業価値の増大を図ろうとする場合があります。
したがって、当該株式を取得することにより企業価値が増大する事業会社は有力な買手候補となります。
プライベート・エクイティファンドのうち、特にセカンダリーファンドと呼ばれるファンドは、様々な原因により生じた少数株主の株式を集約することによって、会社の株主構成を簡素化ないし安定化させ、場合によっては、会社に新たに資金を投入し、新しい情報・人材・取引先などを提供することにより、会社の成長を支援します。
また、少数株主にも多くの権利が認められていることは、「第1 非上場株式に関する基礎知識 1用語の説明(7)少数株主の主な権利とは?」において説明したとおりですが、株主として会社の問題点を指摘して改善を提言したり、場合によっては、経営コンサルタントや社外取締役として会社の経営に携わることも考えられます。
したがって、プライベート・エクイティファンド(非上場株式を投資対象としたファンド)は非常に有力な買手候補となります。よって、これらのファンドの豊富な情報と取引実績に基づく関係を築いている専門家に相談することが必須です。
個人投資家においても、投資の目的等は上記のファンドの場合と同様であり、株主として積極的に会社の成長を支援します。もっとも、個人投資家の中には、買い取られる機会が訪れるまで気長に株式を保有し続ける者もいます。
個人投資家とファンドとの違いは、個人か法人かという違いがあるに過ぎませんが、一般的には、株式の価値が高くない場合には、ファンドとしては手を出し難いことから、そのような場合には、個人投資家の方が買手候補としては有力となります。
(3-1)発行会社側に譲渡する
前述したように、発行会社側は、第三者に株式を保有されるよりは発行会社側で株式を買い取った方が良いと判断することがあり得ることから、発行会社側に売却することが考えられます。
(3-2)発行会社側と価格交渉をする
譲渡制限株式の売買価格は、売手と買手との合意によって自由に決定することができますが、実務上、何らの根拠に基づかない金額では売買は成立しません。株式の主な評価方法としては、後述の「3 株価算定方法」で説明するように、各事案の個別具体的な事情を踏まえ、最も適した評価方法を選択し、あるいは、複数の評価方法を併用することで株式の評価額を算定するため、専門的な知識が必要となります。
また、前述したように、発行会社側は、当該株式の買取りを希望する具体的な第三者が存在しない時点においては、株式の買取りを拒否するとか、買い取るとしても、額面又はこれに類する非常識な価額でしか買い取ろうとせず、具体的な第三者の買手があって初めて適正な価格で買取りを検討し始めるのが通常です。したがって、発行会社側と価格交渉を行うにあたっては、当該株式の具体的な第三者の買手の存在を発行会社側に認識させ、発行会社側の非常識な言い値では当該株式を買い取ることができないこと、交渉が決裂すれば株主が第三者へ当該株式を譲渡することになり、結局高額で買い取らざるを得ないことになる可能性を強く意識させることが重要です。よって、具体的な第三者の買手を探し出すことがより重要であり、最適な第三者の買手を見つけるためには、買手となり得る者の情報を最も豊富に有し、それらと取引実績に基づく関係を築いている専門家に相談することが必須です。
さらに、発行会社側と価格交渉をする際には、発行会社側の情報を収集することも重要です。例えば、発行会社側が経営基盤の安定性や事業承継に問題を抱えていたり、散逸している株式を集約することによるメリットが大きいという事情が判明した場合には、そのような問題点を指摘することにより、積極的な株式の買取りを促すことができます。このような交渉を行うために必要な知識・情報・経験不足を補い、買手と対等な立場で価格交渉を行うためには、非上場株式の売却に精通した専門家に相談することが必須です。
(3-3)価格交渉が不成立となる
前述したように、株主としては、まずは当該株式の発行会社側に株式の買取りを打診することが通常ですが、発行会社側は株式を買い取るとしても、額面又はこれに類する非常識な価額でしか買い取らないのが一般であるため、価格交渉が不成立となる場合は多くあります。
(3-4)発行会社側に譲渡する
発行会社側との価格交渉が成立した場合には、合意した金額で発行会社側に株式を売却することになります。株式の売買を確実に実現するため、売買価額や売買代金の支払い方法、時期など合意した内容を記載した株式売買契約書を作成する必要があります。
なお、発行会社に対して株式を譲渡する場合、売手は会社から配当金を受け取ったわけではないものの、会社から売手へ実質的に利益が分配されたものとみなされ、その売却益が給与など他の所得と合算して課税対象になる場合があることに留意する必要があります(みなし配当。所得税法25条)。
(4-1)第三者に譲渡する
前述したように、非上場会社の株式の売却を検討するにあたっては、発行会社側以外の第三者の中から、当該株式を正当な価格で買い取ってくれる者を探し出すことがより重要であり、最適な買手を見つけるためには、買手となり得る者の情報を最も豊富に有し、それらと取引実績に基づく関係を築いている専門家に相談することが必須です。
この場合、第三者との間で正式な売買契約まで締結するのではなく、会社から譲渡承認を受けた場合に価格など売買条件を協議することや会社から承認を受けられなかった場合にも何らの責任を負わないことなどを定めた基本合意書を締結した上で、会社に譲渡承認請求を行うことが通常です。
(4-2)第三者と価格交渉する
第三者と価格交渉をする際には、後記「(7) 売買価格決定の申立てをする」で述べる裁判所が決定する価格(非上場会社の株主が発行会社側に買取りを打診した際の発行会社側買取金額とは比較にならないほどの高額であり、また、第三者買受人が受諾するであろう買取金額よりも遥かに高額になります。)が、どの程度の価格になるかを正確に把握した上、可能な限り、裁判所が決定する価格に近い金額で成約するように目標価格を設定して価格交渉を行うことが必須です。適正な目標価格を設定することなく漠然と価格交渉を行うことによる損失は計り知れません。
そして、上記の目標価格で売却するためには、なぜ当該価格が適正価格であるのかを根拠を示して説明するとともに、第三者に関する情報を収集した上で様々な角度から交渉を行うことが重要であり、上記④当該株式の発行会社の同業他社や上記⑤当該株式を取得することにより企業価値が増大する事業会社の場合においては、当該会社の経営状況ないし経済状況や、当該会社の競争市場の動向を踏まえた上、適切なタイミングで株式の価格交渉を行う必要があります。また、上記⑥プライベート・エクイティファンドや上記⑦個人投資家の場合においては、各ファンドや個人投資家が、どのような分野の会社に強い興味を持っているのかを踏まえた上、価格交渉を行う必要があります。
以上のように、第三者に対して積極的な少数株式の買取りを促すために必要な知識・情報・経験不足を補い、適正な売却目標価格を設定した上で、買手と対等な立場で価格交渉を行うためには、非上場株式の売却に精通した専門家に相談することが必須です。
(4-3)譲渡承認請求(会社法136条、137条)及び買取先指定請求(会社法138条1号ハ、2号ハ)をする
株主が会社に対して譲渡承認請求をする際には、株主は会社が承認しない場合に備えて、会社又は会社の指定する指定買取人が当該株式を買い取ることを請求することができます。逆に、譲渡制限株主が譲渡承認請求と合わせて買取先指定請求をしなければ、会社は買取先を指定することはできず、譲渡を承認するか、承認しないかのいずれかになります。
(4-4)第三者への譲渡を承認する
会社が第三者への譲渡を承認する場合には、会社は株主の譲渡承認請求があった日から2週間以内に、譲渡承認請求者に譲渡の承認をする旨の通知をする必要があります(会社法139条2項)。なお、会社が株主の譲渡承認請求があった日から2週間以内に、譲渡承認請求者に譲渡を承認するか否かの通知をしなかった場合には、会社が譲渡の承認をする旨の決定をしたものとみなされ、株式を第三者に譲渡することができます(みなし承認。会社法145条1号)。
(4-5)第三者に譲渡する
会社が株主の譲渡承認請求があった日から2週間以内に、譲渡承認請求者に譲渡の承認をする旨の通知した場合には、株式は当該第三者に譲渡することができます。
(5-1)第三者への譲渡を不承認とする
会社が第三者への譲渡を承認しない場合には、会社は株主の譲渡承認請求があった日から2週間以内に、譲渡承認請求者に譲渡を承認しない旨の通知をする必要があります(会社法139条2項)。
第三者への譲渡が不承認となった場合、第三者との関係においては、株式を譲渡する旨の合意がある以上、株式の譲渡は有効ですが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであり、会社は譲渡人を株主として取り扱う義務があります(最判昭和63年3月15日)。
(5-2)会社による買取人の指定がある
この場合、指定買取人と譲渡承認請求者との間で、価格未決定のまま売買契約が成立し、譲渡承認請求者は指定買取人の承諾がない限り、その請求を撤回することができません(会社法143条2項)。
また、指定買取人が買取りの通知を行う際には、1株あたり純資産額に買取株式数を乗じて計算した金額を供託の上、供託を証明する書面を交付する必要があり、これを行わない場合には、会社は第三者への譲渡の承認をする旨の決定をしたものとみなされます(会社法145条3号、会社法施行規則26条2号)。
この場合、会社と譲渡承認請求者との間で、価格未決定のまま売買契約が成立し、譲渡承認請求者は会社の承諾がない限り、その請求を撤回することができません(会社法143条1項)。
また、会社が買取りの通知を行う際には、1株あたり純資産額に買取株式数を乗じて計算した金額を供託の上、供託を証明する書面を交付する必要があり、これを行わない場合には、会社は第三者への譲渡の承認をする旨の決定をしたものをみなされます(会社法145条3号、会社法施行規則26条1号)。
(5-3)指定買取人(ないし会社)と価格交渉をする(会社法144条1項、7項)
指定買取人(ないし会社)と価格交渉をする際には、同交渉が成立しなかった場合には、後記「(7) 売買価格決定の申立てをする」で述べる裁判所が決定する価格(非上場会社の株主が発行会社側に買取りを打診した際の発行会社側買取金額とは比較にならないほどの高額であり、また、第三者買受人が受諾するであろう買取金額よりも遥かに高額になります。)で買い取られることが保証されていることを踏まえた上で交渉する必要があります。
すなわち、裁判所が決定する価格がどの程度の価格になるかを正確に把握した上で、なぜ当該価格が適正価格であるのかを根拠を示して説明し、当該価格で売却できるように価格交渉を行いますが、その際には、仮に価格交渉が成立しなかったとしても、裁判所が決定する価格で買い取られる以上、有利に交渉を進めることが可能となります。
また、価格交渉が成立しない場合には、売主は指定買取人(ないし会社)から指定買取人(ないし会社)による買取りの通知があった日から20日以内に、裁判所に対して、売買価格の決定の申立てをする必要があり(会社法144条2項、7項)、売買価格の決定の申立てが上記の期間内に行われなかった場合には、供託された金額と同額の1株当たり純資産額に株式の数を乗じた金額が売買価格となります(会社法144条5項)。このように、指定買取人(ないし会社)との交渉期間が限定されており、仮に交渉が不成立で、裁判所に売買価格決定の申立てをしない場合の売買価格が法律で決められている点でも、有利に交渉が進められることになります。
(5-4)価格交渉が成立する
指定買取人(ないし会社)との間で価格交渉が成立すれば、合意した金額で株式を売却します。株式の売買を確実に実現するため、売買価額や売買代金の支払い方法、時期など合意した内容を記載した株式売買契約書を作成する必要があります。
(5-5)指定買取人(ないし会社)に譲渡する
指定買取人(ないし会社)との間で価格交渉が成立すれば、合意した金額で、指定買取人(ないし会社)に株式を売却することになります。
(6)価格交渉が不成立となる
価格交渉が成立しない場合には、売主は指定買取人(ないし会社)から指定買取人(ないし会社)による買取りの通知があった日から20日以内に、裁判所に対して、売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法144条2項、7項)。
(7)売買価格決定の申立てをする
売買価格の決定の申立てがなされた裁判所は、譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して売買価格を決定します。
この場合、「第1 非上場株式に関する基礎知識 4 非上場株式の価格」、「「第2 非上場株主による売却手続きの流れ・方法・成功のポイント 3 株価算定方法」に説明する適正な価格で決定され、発行会社側のオファーの数十倍の価格になることも珍しくありません。また、第三者買受人の受諾する金額は、裁判所が決定する価格の2分の1ないし3分の2程度であり、裁判所が決定する価格は、第三者買受人の受諾する金額よりも遥かに高額になることが一般的です。
なお、当事者が指定買取人(ないし会社)から指定買取人(ないし会社)による買取りの通知があった日から20日以内に、裁判所に対して、売買価格の決定の申立てを行わなかった場合には、1株当たり純資産額に買取株式数を乗じた額が売買価格になります(会社法144条5項、7項)。
(8)指定買取人に譲渡する
売買価格が決定すれば、決定した金額で株式を譲渡します。
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