① 株主総会に先立つ反対通知および株主総会における反対決議
株式買取請求権を行使するためには、株主総会に先立って会社の行為に反対する旨を会社に対して通知し、かつ、株主総会において当該事項に反対する必要があります(会社法116条2項1号イ、182条の4第2項1号、469条2項1号イ、785条2項1号イ、797条2項1号イ、806条2項1号)。
株主総会に先立つ反対通知を行ったうえで(事前の反対通知)、株主総会において反対票を投じなければならず(総会当日の反対)、合計2度の反対が必要となるため、注意が必要です。
この事前の反対通知は、実務上は、会社宛てに会社の行為に反対する旨を明確に記載した配達証明付内容証明郵便で行うことが適切です。
会社に対し、株主総会に先立って総会決議案に反対する旨の委任状を提出していたとしても、委任状はあくまで受任者(委任を受けた者)への議決権行使の指図にすぎず、会社に対する事前の反対の意思表示とは通常認められませんので、注意が必要です。
なお、株主総会・種類株主総会で議決権を行使することができない株主には、株主総会・種類株主総会に先立って反対する旨を会社に通知する必要はありません(会社法116条2項1号ロ、182条の4第2項2号、469条2項1号ロ、785条2項1号ロ、797条2項1号ロ、806条2項2号)。
また、株主総会・種類株主総会の決議が不要とされている場合にも、会社に対して反対通知をする必要はありません(会社法116条2項2号、469条2項2号、785条2項2号、797条2項2号)。
② 会社による通知・公告
一定の定款変更・一定の資本再構成行為のうち、定款により種類株主総会決議が不要とされているが、種類株主に損害を及ぼすおそれがある行為・株式併合・事業譲渡等・吸収合併等が行われる場合には、会社より、効力発生日の20日前までに、それらを行う旨が株主に通知されます(会社法116条3項、182条の4第3項、469条3項、785条3項、797条3項)。
新設合併等が行われる場合には、会社より、新設合併等を承認する株主総会の決議の日から2週間以内に、新設合併等を行う旨が株主に通知されます(会社法806条3項)。
なお、通知は公告をもって代えられることがあります(会社法116条4項、181条2項、806条4項)。
但し、事業譲渡等・吸収合併等の場合には、事業譲渡等を行う会社・消滅会社等・存続会社等が公開会社(会社法2条5項)である場合、事業譲渡等・吸収合併等の株主総会の承認を受けた場合でなければ公告をもって通知に代えられることはありません(会社法469条4項、785条4項、797条4項)。
会社より、法律に従った適切な通知・公告が行われなかった場合、株主は、株式買取請求権をどのように行使するか、といったことは学説が分かれていますが、①通知・公告がなされておらず、株主総会招集の通知においても議案の概要に記載されていないような場合は、株主は当然に株式買取請求権を行使できる、とする見解や、②通知・公告がなされていない場合は、行使期間に関係なく、株主は株式買取請求権を行使することができる、とする見解などがあります。法律に従った適切な通知・公告がなされていない場合、株主が会社に対する反対通知を適切に行うことも難しいため、反対通知を行っていない株主も、株式買取請求を行える余地が十分にあることとなります。
③ 会社に対する買取請求
株式買取請求をする株主は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間(新設合併等の場合は、会社が通知・公告をした日から20日以内)に、株式買取請求に係る株式の種類・数を明らかにして株式買取請求をしなければなりません(会社法116条5項、182条の4第4項、469条5項、785条5項、797条5項、806条5項)。
株式買取請求をした株主は、会社の承諾を得なければ、株式買取請求を撤回することができなくなります(会社法116条7項、182条の4第6項、469条7項、785条7項、797条7項、806条7項)。
但し、効力発生日(新設合併等の場合においては設立会社の成立の日)から60日以内に価格決定の申立がない場合には、株主はいつでも株式買取請求を撤回することができます(会社法117条3項、182条の5第3項、470条3項、786条3項、798条3項、807条3項)。
④ 会社との協議
株式買取請求を行使した株主と会社との間で株式の価格について協議が整った場合には、会社は効力発生日(新設合併等においては設立会社の成立の日)から60日以内に株式の代金の支払をしなければなりません(会社法117条1項、182条の5第1項、470条1項、786条1項、798条1項、807条1項)。
⑤ 価格決定の申立
株式買取請求を行使した株主と会社との間で効力発生日(新設合併等においては設立会社の成立の日)から30日以内に株式の価格について協議が整わない場合、その期間の満了日後30日以内に、反対株主または会社は、裁判所に対して価格決定の申立をすることができます(会社法117条2項、182条の5第2項、470条2項、786条2項、798条2項、807条2項)。
なお、この期間内に反対株主も会社も裁判所に対して価格決定の申立てを行わなかった場合、裁判所に対する価格決定の申立ては行えなくなりますが、株式買取請求は引き続き、効力を有します。反対株主は、会社との協議を続けるか、株式買取請求の撤回をする(会社法117条3項、182条の5第3項、470条3項、786条3項、798条3項、807条3項)かを、検討することとなります。
買取価格については裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解されていますので(最高裁判所第1小法廷昭和48年3月1日決定)、反対株主は、自己の希望する価格での買取を実現するために、自己の主張する価格が理論上根拠のある金額であることを積極的に裁判所に立証していくことが必要となります。
このためには、説得力のある正しい主張を行い、また専門家による株価鑑定書、意見書等を作成し、証拠として提出することなどが重要です。
なお、会社は裁判所が決定した価格に対して効力発生日(新設合併等においては設立会社の成立の日)から60日の期間満了日後の年3分の利率により算定した利息を支払わなければなりません(会社法117条4項、182条の5第4項、470条4項、786条4項、798条4項、807条4項)。
⑥ 手続のフローチャート
上記の手続を図示すると、以下の図のとおりとなります。
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