第4 会社・特別支配株主による売渡請求等に対する対応の流れ・方法・成功のポイント
1 会社・特別支配株主による売渡請求等に対する対応のあらまし
(1) 売渡請求とは
(2) 全部取得条項付種類株式の取得がなされる場合
2 手続きの流れと各手続の解説
(1) 売渡請求
(2) 全部取得条項付種類株式の取得がなされる場合
3 株価算定方法
(3) 株価算定規範
4 判例
(1) 株価算定に関する判例
(2) 要件に関する判例
5 成功のポイント
6 書式集とその説明
(1) 特別支配株主による売渡請求
(2) 相続人に対する売渡請求
(3) 取得条項付株式の取得
(4) 全部取得条項付株式の取得
1 会社・特別支配株主による売渡請求等に対する対応のあらまし
会社法は、一定の要件を満たした場合、個別の株主の同意なく、株主が保有する株式を一定の者が取得できる制度を定めています。
これらの制度は、いずれもスクイーズアウト(少数株主の締め出し)の目的で活用されるものです(締め出しに当たり、他の株主に取得株式の対価として金銭を支払う必要があることから、キャッシュアウトとも呼ばれます)。
ここでは、①特別支配株主による売渡請求、②相続人に対する売渡請求、③全部取得条項付種類株式の取得がなされる場合、の3種の制度について説明します。
(1)売渡請求とは
① 特別支配株主による売渡請求
株式会社の総株主の議決権の90%以上を有する者(このような者を「特別支配株主」といいます。)が、対象会社の他の株主(対象会社を除く)の全員に対して、他の株主が有する対象会社の株式等(新株予約権が発行されているときは新株予約権を含みます。)の全部を特別支配株主に売り渡すことを請求できる制度です。
少数株主は会社経営に直接的な影響を及ぼす権限に乏しいとは言え、当該少数株主がいわゆる「物言う株主」である場合や、特別支配株主との関係が疎遠であったり、敵対しているなどしている場合、特別支配株主にとっては、そのような少数株主は経営上目障りな存在であり、経営の自由度が一定程度損なわれることから、そのような少数株主が有する株式を買い取りたいと考えても不思議ではありません。
そのため、会社法は、特別支配株主の議決権の要件を90%以上とする極めて高いハードルを課した上で、少数株主に対する株式売渡請求を認めました。
このように、特別支配株主による売渡請求は、特別支配株主の立場からすれば少数株主の締め出しという側面を有しますが、少数株主の立場からすると、少数株式の換金が確実に実現できるまたとない機会と言えます。
なお、少数株主の経済的利益の保護の観点から、特別支配株主から株式の買取請求を受けた株主は、対象会社から通知された株式売買価格に対し不服がある場合、裁判所に価格決定の申立を行うことができます。そのため、特別支配株主は、株式の売渡しそれ自体は拒絶できないものの、自己が有する株式を公正な価格で売却できることが制度上保障されています。
② 相続人に対する売渡請求
株式会社が、株主の相続の発生により、非上場株式を取得した相続人に対し、当該株式(譲渡制限株式に限ります。)を会社に売り渡すことを請求できる制度です。
非上場会社においては、定款で株式の譲渡制限を定めていることが一般的ですが、「相続」は人間の死という本人の意思に基づかない自然事象であり、株主の意思に基づく法律行為である「譲渡」に該当しません。そのため、譲渡制限のみでは会社にとって好ましくない者が株式を取得することを防止する効果を得るには不十分であり、会社法は、会社が定款で相続人に対する売渡請求を可能とする規定を設けているときは、会社が発行した譲渡制限株式を相続人に対し売渡請求できる権利を認めました。
売渡請求を受けた相続人は、特別支配株主による売渡請求の場合と同様、株式の売渡しそれ自体は拒絶できないものの、会社と代金額について協議が整わないときは、裁判所に価格決定の申立を行うことにより、公正な価格で売却できることが制度上保証されていることから、相続人にとっては自己が相続した譲渡制限株式を、公正な価格で売却できる数少ないチャンスと言えます。
(2)全部取得条項付種類株式の取得がなされる場合
これまでに説明した株主への売渡請求(①特別支配株主が少数株主に対して株式売渡請求を行い、特別支配株主が全部の株式を取得する方法、②会社が相続人に対して株式売渡請求を行い、会社が株式を取得する方法)の場合と異なり、少々手続きが複雑となりますが、少数株主を締め出す方法として、全部取得条項付種類株式の取得が行われる場合があります。
この方法としては、①普通株式以外の種類株式を発行する旨の規定を設ける定款一部変更、②普通株式に、種類株式を取得対価とする全部取得条項を付す旨の定款一部変更、③全部取得条項付種類株式を取得する、という3つの議案を、1回の株主総会の特別決議(発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成が必要となる決議)によって可決します。③によって交付される種類株式数が、経営を支配する多数株主以外の少数株主に対しては、1株未満となるようにし、これによって少数株主に交付されるのは端株となります。会社は、各少数株主の端株を合計し、1株以上となった部分を、裁判所の許可を得て、残存株主に売却するか、会社自身が買い取ります。そして、会社は、売却代金を少数株主に交付します。
全部取得条項付種類株式の取得価格に不服のある株主は、裁判所に価格決定の申立を行うことができ、公正な価格での売却となることが制度上保障されています。
そのため、全部取得条項付種類株式の取得がなされる場合、株主は株式の売却を余儀なくされるものの、自己が有する株式を公正な価格で売却する好機となります。
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