(1)売渡請求
① 特別支配株主による売渡請求
総株主の議決権の90%以上を有する特別支配株主が、対象会社に対して、株式売渡請求をしようとしていること、株式売渡請求をする場合の対価として交付する金銭の額や特別支配株主が売渡株式を取得する日(取得日)等を通知します(会社法179条の3第1項)。
対象会社は、特別支配株主による株式売渡請求を認める場合は、取締役会決議によって承認します(取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数により承認します)(会社法179条の3第3項)。
対象会社は、特別支配株主に対して、株式売渡請求を承認する旨を通知します(承認しない場合は、その旨通知します)(会社法179条の3第4項)。
対象会社は、株式売渡請求を承認した場合、株式取得日の20日前までに、売渡株主に対して通知します(会社法179条の4第1項)。
なお、登録質権者や新株予約権者に対しては通知をせずとも公告で足ります。
対象会社は、売渡株主に対する通知または上記の公告の日のいずれか早い日から、取得日後6か月間(非公開会社の場合は1年間)、株式売渡請求に関する所定の事項を記載した書面を本店に備え置かなければいけません(会社法179条の5第1項)。
株式取得の対価である金銭支払がなされていなくとも、取得日に、売渡株主から特別支配株主に対する株式移転の効力が生じます(会社法179条の9第1項)。
対象会社は、取得日から6か月間(非公開会社の場合は1年間)、株式売渡請求に関する所定の事項を記載した書面を本店に備え置かなければいけません(会社法179条の10第1項、第2項)。
株式売渡請求を行う特別支配株主が定め、対象会社から通知された株式売買価格に不服である売渡株主は、効力発生日の20日前から取得日の前日までの間に、裁判所に対して売買価格決定の申立てを行うことができます(会社法179条の8第1項)。
② 相続人に対する売渡請求
株主総会の特別決議(発行済株式総数の過半数を保有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成が必要となる決議)によって、相続人に対する株式売渡請求の規定を設ける定款変更を行います(会社法174条、309条2項11号)。
なお、このような定款変更が行えるのは、譲渡制限株式に限ります。
相続人に対して株式売渡請求を行おうとするときは、その都度株主総会の特別決議により、売渡請求の対象となる株式の数、株式を有する者の氏名・名称を定めます(会社法175条1項)。
会社は、相続があったことを知った日から1年以内に、株式売渡請求の決定に基づき、相続人に対し、売渡しの請求をする株式の数を明示し、株式を売り渡すことを請求します(会社法176条1項)。
会社と相続人とで、株式の売買価格について協議します(会社法177条1項)。
会社、相続人間で売買価格についての協議が整わない場合、会社、相続人は、それぞれ株式の売渡しの請求日から20日以内に、裁判所に対して売買価格決定の申立てを行うことができます(会社法177条2項)。
なお、会社は、売買価格が決定するまでは、いつでも、株式売渡請求を撤回できます(会社法176条3項)。
(2)全部取得条項付種類株式の取得がなされる場合
① 書類の事前備置
会社は、株主総会の日の2週間前の日または、株主に対する通知・公告の日の早い日から、取得日後6か月間、全部取得条項付種類株式の取得に関する所定の事項を記載した書面を、会社の本店に備え置かなければいけません(会社法171条の2第1項)。
② 株主に対する通知・公告
会社が、株式に全部取得条項を付す旨の定款変更を行う場合、定款変更の効力発生の20日前までに、株主に対する通知を行う必要があります(会社法116条3項)。公告でも足ります(会社法116条4項)。
会社が、全部取得条項付種類株式の全部の取得を行う場合、取得日の20日前までに、株主に対し、通知をする必要があります(会社法172条2項)。公告でも足ります(会社法172条3項)。
定款変更のための通知・公告、全部取得条項付種類株式取得のための通知・公告は同時に実施することも可能です。
③ 株主総会特別決議
以下ア~ウの決議を一回の株主総会の開催で行うのが通常です。
全部取得条項付種類株式の取得対価を種類株式として、残存する株主には1株以上の株式が、それ以外の少数株主には1株に満たない端数が交付されるようにします。
④ 端数の処理
少数株主に割り当てられた端数について、会社がこれをまとめて1株以上となった部分を、裁判所の許可を得て、残存株主に売却するか、会社が買い取ります(会社法234条2項、234条4項)。会社は、売却代金を少数株主に交付します。
⑤ 書類の事後備置
会社は、取得日後6か月間、全部取得条項付種類株式の取得に関する所定の事項を記載した書面を、会社の本店に備え置かなければいけません。(会社法173条の2第2項)
⑥ 定款変更に反対する株主による株式買取請求及び価格決定の申立
全部取得条項を付す旨の定款変更に反対する株主は、会社に対し、公正な価格での株式の買取を請求することができます(会社法116条1項)。
株式買取請求をするには、株主総会に先立ち、反対する旨を会社に対して通知したうえで、株主総会において反対の議決権を行使する必要があります(会社法116条2項)。また、定款変更の効力発生の20日前の日から効力発生の前日までの間に、株式買取請求を行う必要があります(会社法116条5項)。
そして、定款変更の効力発生より30日以内に協議が整わないときは、それから30日以内に、反対株主または会社は、裁判所に対して価格決定の申立てを行うことができます(会社法117条2項)。
なお、この期間内に反対株主も会社も裁判所に対して価格決定の申立てを行わなかった場合、裁判所に対する価格決定の申立ては行えなくなりますが、株式買取請求は引き続き、効力を有します。反対株主は、会社との協議を続けるか、株式買取請求の撤回をする(会社法117条3項)かを、検討することとなります。
⑦ 全部取得条項付種類株式の取得決議に反対する株主による価格決定の申立
全部取得条項付種類株式の取得決議に反対する株主は、裁判所に対し、価格決定の申立てを行うことができます(会社法172条1項)。
裁判所に対し、取得価格決定の申立てを行うためには、株主総会に先立ち、反対する旨を会社に対して通知したうえで、株主総会において反対の議決権を行使する必要があります(会社法172条1項)。
そして、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対して価格決定の申立てを行う必要があります(会社法172条1項)。