第2 非上場株主による売却手続きの流れ・方法・成功のポイント
1 非上場株式売却手続きのあらまし
2 売却手続の流れと各手続の解説
(1) 譲渡制限株式の発行会社の情報を集める
(2) 買手を探す
(3-1)発行会社側に譲渡する
(3-2)発行会社側と価格交渉をする
(3-3)価格交渉が不成立となる
(3-4)発行会社側に譲渡する
(4-1)第三者に譲渡する
(4-2)第三者と価格交渉する
(4-4)第三者への譲渡を承認する
(4-5)第三者に譲渡する
(5-1)第三者への譲渡を不承認とする
(5-2)会社による買取人の指定がある
(5-4)価格交渉が成立する
(5-5)指定買取人(ないし会社)に譲渡する
(6) 価格交渉が不成立となる
(7) 売買価格決定の申立てをする
(8) 指定買取人に譲渡する
3 株価算定方法
(1) 協議により売買価格を決定する場合の株価算定方法
(3) 株価算定規範
4 判例
(1) 株価算定に関する判例
(2) 要件に関する判例
5 成功のポイント
6 書式集とその説明
(1) 会計帳簿等閲覧謄写請求
(2) 譲渡承認請求
(3) 譲渡承認決議、承認通知
(4) 譲渡不承認決議及び会社による買取り
(5) 譲渡不承認決議及び買取人の指定
(6) 株券供託事実の通知
(7) 株式売買契約の締結
(8) 株式名義書換請求
(9) 株式売買価格決定申立
(10)株式譲渡制限規定を新たに設定する定款変更
(11)株式譲渡制限規定を撤廃する定款変更
1 非上場株式売却手続きのあらまし
非上場会社の株式を売却する場合、上場会社や店頭登録されている株式のように公開マーケット(「東証1部」改め「東証プライム」など)の成立している株式と異なり、個別に買手を探し出す必要があります。
非上場株式の主な売却先|買手について
非上場株式を売却する場合の主な買手としては、後述の「2 売却手続の流れと各手続の解説 (2)買手を探す」に記載のように、①当該株式の発行会社、②当該株式の発行会社の経営者、③当該株式の発行会社の主要株主、④当該株式の発行会社の同業他社、⑤当該株式を取得することにより企業価値が増大する事業会社、⑥プライベート・エクイティファンド(非上場株式を投資対象としたファンド)、⑦個人投資家などが存在します。
非上場株式を正当な価格で売却できる買手とは
非上場会社の株式を売却する場合、まず株主は、上記①当該株式の発行会社、②当該株式の発行会社の経営者、③当該株式の会社の発行会社の主要株主(以下、上記①ないし③に該当する者をまとめて「発行会社側」といいます。)に買取を打診することが通常ですが、発行会社側は、買取を拒否するとか、買い取るとしても、額面又はこれに類する非常識な低額しかオファーしないのが一般です。
したがって、非上場株式を売却しようとする場合、正当な価格でこれを買い取る第三者の買手を上記④当該株式の発行会社の同業他社、⑤当該株式を取得することにより企業価値が増大する事業会社、⑥プライベート・エクイティファンド(非上場株式を投資対象としたファンド)、⑦個人投資家の中から探し出す必要があるのが通常です。
非上場会社の株式の譲渡制限
非上場会社の大多数は、株式譲渡について、会社(取締役会設置会社の場合は、取締役会。そうでない場合は株主総会)の承認を要する旨の規定を定款に置いています。非上場会社のこのような譲渡制限株式は、会社の承認がなければ、譲渡することが認められません。
会社が譲渡を承認する場合は、買手の第三者に譲渡すれば良いのですが、通常、会社は、好ましくない第三者が株主となることを嫌がるため、少数株を有する株主による第三者に対する売却を承認しないケースが多いといえます。
譲渡制限株式であっても売却は可能
しかし、譲渡制限株式を第三者に譲渡したい株主は、特定の第三者への譲渡の承認とあわせて、会社が当該特定の第三者への譲渡を承認しない場合には、株式を買い取る者を会社が指定するよう請求することができます。
この場合、会社は会社自身で非上場株式を買い取るか、会社の指定する指定買取人が非上場株式を買い取るかを選択しなければなりません。したがって、会社が承認しなくとも結局、当該特定の第三者への譲渡はできませんが、会社の指定買受人に株式を譲渡することができます。
このように、譲渡制限株主であっても、第三者の買手さえおれば非上場株式を売却することは制度的に保障されています。
非上場株式の売却価格決定の流れ
非上場株式の発行会社が第三者の買手への譲渡を承認する場合
会社が第三者である買手への譲渡を承認する場合、非上場株式の売却価格については、譲渡株主と第三者の買手との協議によって定めます。
譲渡株主は、後述する裁判所の手続(「2 売却手続きの流れと各手続の解説 (7)売買価格決定の申立てをする」を参照。)によって裁判所が定める当該非上場株式の正当な価格に準じるレンジで売買価格をオファーしますが、第三者である買手の受諾する金額は、後述する裁判所の手続(「2 売却手続きの流れと各手続の解説 (7)売買価格決定の申立てをする」を参照。)によって裁判所が定める当該非上場株式の正当な価格の2分の1ないし3分の2程度であることが一般的です。
非上場株式の発行会社が買受人を指定する場合
会社が第三者である買手への譲渡を承認せず、買受人を指定した場合の株式の売買価格については、譲渡株主と指定買受人との協議によって定めますが、当事者間で折り合いがつかない場合には、裁判所に売買価格決定の申立てをすることができます。
後述のように、この手続きで裁判所が決定する売買価格は、非上場会社の株主が当初非上場株式の発行会社側に買取りを打診した際の発行会社側買取金額と比較にならないほどの高額の金額になることが通常で、時には、数十倍の金額となることも珍しくありません。また、第三者買受人が受諾するであろう買取金額よりも遥かに高額になることも前述のとおりです。
非上場株式の売却には買手情報の収集力と非常に専門的で広い知識が必要
以上でお分かりのように、非上場株式の売却には、買手情報を広い角度で多方面から集め、第三者の買手を確保することが極めて重要である一方、発行会社側の譲渡不承認の場合の価格決定のプロセスも念頭においておく必要のある非常に専門的で広い知識を要する業務です。