1 少数非上場株式は譲渡できる
2 少数非上場株式の譲渡制限とはどういうことか
3 少数非上場株式を譲渡したほうがよい人とは
4 少数非上場株式譲渡のデメリットはあるか
5 少数非上場株式の譲渡の手続
6 少数非上場株式の譲渡の実例紹介
7 少数非上場株式の譲渡における課題と成功のポイント
8 少数非上場株式の譲渡で株価の算定が必要になる場面と算定方法
9 少数非上場株式の株価算定における注意点
10 少数非上場株式の譲渡で発生する税金
11 少数非上場株式の譲渡に関するよくある質問と回答
12 少数非上場株式の譲渡のまとめ
1 少数非上場株式は譲渡できる
少数非上場株式の多くは、譲渡制限が設けられている譲渡制限株式であるため、株式を自由に売却することはできませんが、当該会社の承認を得れば売却することができます。会社がこれを承認しない場合は、会社自身または会社が指定する第三者(指定買取人)が当該株式を買い取らなければなりません。そうすると結局、非上場株式でもこれを譲渡することはできるということです。その株式が少数株式であっても、譲渡ができるということです。
2 少数非上場株式の譲渡制限とはどういうことか
「譲渡制限株式」とは、会社が定款により、株式を譲渡する際には会社の承認を必要とする旨の制限を設けている株式のことです(会社法2条17号)。
譲渡制限株式の譲渡を承認するかどうかは、定款に特別の記載がない限りは、原則として、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会で決定されます(会社法139条1項)。
なお、相続により譲渡制限株式を承継する場合は、ここでいう「譲渡」には該当しません(会社の承認を得る必要はありません。もっとも、会社は、株式を相続した株主に対して、株式売渡請求を行える場合があります。)。
株式に譲渡制限が設けられているか否かを確認する方法としては、①会社の定款を確認する方法と、②会社の登記簿謄本を確認する方法があります。
確認方法の詳細については、以下の記事「(2)譲渡制限株式とは?」をご覧ください。
3 少数非上場株式を譲渡したほうがよい人とは
例えば、少数非上場株式を漫然と保有し続けていることで、将来の相続の際に、相続税を納税できないという事態が生じかねません。
相続税は現金で納税することが原則ですが、相続税を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税義務者の申請に基づき、税務署長の許可を得ることにより、納付を困難とする金額を限度として、金銭以外の財産で納付する「物納」が認められています。しかし、譲渡制限株式は、物納不適格財産とされており、譲渡制限株式をもって相続税を納税することはできません。
そうすると、相続税資金が確保できず、将来、相続人が困難に陥るという事態になりかねません。将来の相続税の負担を考えると、今のうちに少数非上場株式を売却しておいたほうがよいというケースは多数存在すると考えられます。
相続税の納税リスクの詳細については、以下の記事をご覧ください。
► 第1非上場株式に関する基礎知識_2非上場株式・少数株式であることによる問題点
4 少数非上場株式譲渡のデメリットはあるか
少数非上場株式を保有していても会社経営に与える影響力はほとんどないことに加え、配当がないか、あったとしてもごく少額であることが大半です。さらに、将来の相続税負担というリスクがあります。このような少数非上場株式を譲渡することには、メリットこそあれ、デメリットはほとんどないと考えられます。
詳細については、以下の記事をご覧ください。
5 少数非上場株式の譲渡の手続
少数非上場株式の譲渡の手続の概要についてご説明します。
(1)譲渡制限株式の発行会社の情報を集める
ご自身の保有株式数、保有株式割合、譲渡制限の有無、株券発行の有無、会社の資産・利益・財務状況・主な取引先・株主構成等を調査します。
情報収集方法としては、会社の登記簿謄本の取得、定款の確認、株主総会への出席、株主名簿・株主総会議事録・会計帳簿(決算書等)・計算書類の確認等があります。
(2)買い手を探す
買手の主な候補としては、
① 当該株式の発行会社
② 当該株式の発行会社の経営者
③ 当該株式の発行会社の主要株主
④ 当該株式の発行会社の同業他社
⑤ 当該株式を取得することにより企業価値が増大する事業会社
⑥ プライベート・エクイティファンド(非上場株式を投資対象としたファンド)
⑦ 個人投資家
などが挙げられます。
(3)発行株式会社に譲渡する場合
発行会社側は、第三者に株式を保有されるよりは発行会社側で株式を買い取った方が良いと判断することがあり得ることから、発行会社側に売却することが考えられます。
この場合、価格交渉による売却を目指します。もっとも、発行会社側は額面(発行時の価格)又はこれに類する非常識な価額での買取を提案することが多く、発行会社との価格交渉は、時として思ったようにいかないことがあります。
(4)第三者に譲渡する場合
発行会社側以外の第三者の中から、当該株式を正当な価格で買い取ってくれる者を探し出すことも重要です。
最適な買手を見つけるためには、買手となり得る者の情報を豊富に有し、それらと取引実績に基づく関係を築いている専門家に相談することが必須です。
また、会社の株式が譲渡制限株式である場合、会社に対する譲渡承認請求が必要です。譲渡承認があった場合には、株式は当該第三者に譲渡することができます。
(5)第三者への譲渡が不承認となった場合
会社が譲渡承認請求者に譲渡の承認をしない旨の通知をする場合、会社は、自ら株式を買い取るか、会社が指定する者(指定買取人)に買い取らせるかを決めなければなりません。
会社または指定買取人との間で価格交渉が成立すれば、合意した金額で、会社または指定買取人に株式を売却することができます。
(6)価格交渉が不成立となった場合
価格交渉が成立しない場合には、売主は、会社又は指定買取人による買取りの通知があった日から20日以内に、裁判所に対して、売買価格の決定の申立てをすることができます。
(7)売買価格決定の申立てをする
売買価格決定の申立てがなされた裁判所は、譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して売買価格を決定します。
多くの場合、これまでの交渉において、会社側が提示していた買取希望金額とは比較にならないほどの高額となることが一般です。
(8)会社または指定買取人に譲渡する
裁判所により、株式売買価格が決定されれば、その価格で株式を譲渡できることとなります。
少数非上場株式譲渡の各手続の詳細については、以下の記事をご覧ください。
► 第2 非上場株主による売却手続きの流れ・方法・成功のポイント_2 売却手続の流れと各手続の解説
弁護士監修の各種書式もご紹介しておりますので、ご参考にしてください。
► 第2 非上場株主による売却手続きの流れ・方法・成功のポイント_6書式集とその説明
6 少数非上場株式の譲渡の実例紹介
(1)持株比率10%の株式を、純資産方式による株式評価額以上で売却した事例
当事務所が受任後、株式発行会社の社長に買取の打診をしましたが、会社の顧問税理士同席の上、相続税評価額である、類似業種比準方式による評価額として、2億円(純資産方式(約10億円)の約5分の1)でしか買い取ることができないとの一方的主張がなされました。
これを受けて、当事務所は、株式の時価評価額を算定するため会計帳簿の閲覧請求をしましたが、会社は閲覧請求に応じませんでした。ただし、株式発行会社の社長は、株式の買取について柔軟に協議をしたいという姿勢に軟化しました。
純資産方式による評価額(約10億円。なお、資産の殆どは預貯金を含む金融資産が占めており、この評価額は入手済の決算書等からの推定値)の50%を最低限の目標取得額として交渉した結果、先方の当初提示額の6倍にもなる金額(12億円)で売却を合意することができました。
本件は、相続税評価額(類似業種比準方式)からは単純に6倍、また純資産方式による評価額(10億円)との比較でも同評価額をも大きく上回る結果で売却できた事例です。
(2)経営方針をめぐる意見の相違を機に時価純資産価額をベースとして株式を売却した事例
創業者の相続を機に株式が複数のグループ(A、B、C)に分散している会社において、Aグループが株式を他のグループもしくは会社に売却する方向で協議することとなり、株式の売却交渉を当事務所において受任しました。
受任前になされていた交渉では、株式の買取価格ないし評価額について過去の相続税評価額(1株あたり約6000円)をベースとしており、会社の価値を適正に反映したものではありませんでした。
対象会社の資産は不動産が大きな割合を占めており、その時価評価次第で対象株式の評価額に大きな影響を与えることが予想されました。そこで、他のグループに対し、一部の不動産の売却により株式の買取資金の原資とすることや、実際の売却価格を当該不動産の時価とした上で株価の買取価格に反映させることを求め、その旨の合意を取り付けました。
その後、当該不動産の売却手続を実行するとともに、株式の適正な買取価格を算定したところ、時価純資産方式による評価は1株あたり約5万円となり、相続税評価額を大幅に上回る時価純資産方式を前提とする金額(1株あたり約5万円、総額約5億円)でAグループの保有する株式の全てを会社に売却できたという事例です。
※ 事例については、依頼者が特定できないよう、実際の事例を一部加工しております。
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7 少数非上場株式の譲渡における課題と成功のポイント
少数非上場株式の売却が一般的に困難とされる主な要因には、公開マーケット(流通市場)が存在していないこと、会社の譲渡承認を得る必要があるため、買主が諦めてしまうこと、少数株式の場合には、会社への影響力が限定的であり株式を取得する利点が少ないと考える買主が多いことが挙げられます。
少数非上場株式の買取請求に精通した当事務所においては、会社との戦略的な交渉に加え、広範囲にわたる独自の豊富な売却先情報からベストの買主を選定し、少数非上場株式の譲渡をサポートいたします。
少数非上場株式の譲渡に関する問題点の詳細については、以下の記事をご覧ください。
► 第1 非上場株式に関する基礎知識_2 非上場株式・少数株式であることによる問題点
8 少数非上場株式の譲渡で株価の算定が必要になる場面と算定方法
少数非上場株式を売却する際は、誰しもできる限り高値で売却したいと考えるものですが、少数非上場株式は市場で取引されるものではないため、上場株式のような市場価格が存在しません。
したがって、少数非上場株式を売却しようとするとき、その価格の調査を、専門家に依頼する必要があります。
少数非上場株式の評価方法としてはさまざまなものがありますが、大まかに言えば、
① インカム・アプローチ
(会社が将来獲得しうる収益やキャッシュフローに対し、獲得が実現できるリスクなどを反映し株式価値を評価する方法)
② マーケット・アプローチ
(上場している同業他社の株価や類似する取引事例などと比較することによって相対的に株式価値を評価する方法)
③ ネットアセット・アプローチ
(貸借対照表の純資産を基準に株式価値を算定する方法)
の三つの体系に分類されます。そして、その各体系の中でも更に複数の評価方法が存在します。
各評価方法による少数非上場株式の評価結果は全く異なるものとなり、10倍以上の差が開くことも珍しくありません。
少数非上場株式の株価算定の詳細については、以下の記事をご覧ください。
9 少数非上場株式の譲渡で株価の算定が必要になる場面と算定方法
前述のとおり、少数非上場株式の評価方法としては様々な種類があり、各評価方法によって金額が全く異なります。
適正な評価をするためには、どの評価方法を用いるか、あるいはどの評価方法とどの評価方法をどのような割合で組み合わせるかを、評価対象株式ごとに適正に判断する必要があります。
ご自身に不利な株式評価で売却する結果となることを避けるためには、経験豊富な弁護士、税理士、公認会計士等のサポートを受けることが非常に重要です。
10 少数非上場株式の譲渡で発生する税金
少数非上場株式を売却した結果として売却益が発生した場合には、以下のような税負担が生じることとなりますので、その売却益について適切に税務処理を行う必要があります。
(1)買主が個人であるとき
売主は売却益について一般株式等に係る譲渡所得として所得税の確定申告を行う必要があります。一般株式等に係る譲渡所得については、「申告分離課税」の方式により他の所得と区分して、20.315%(※)に相当する所得税及び住民税の負担が生じます((※)所得税及び復興特別所得税で15.315%、住民税で5%)。
これに加えて、適正な時価よりも低い価額で売却した場合には、適正な時価と対価の差額に相当する利益が売主から買主へ移転したと考えられ、買主が売主からその利益に相当する金額の贈与を受けたものとみなされ(相続税法第7条)、原則として買主に対して贈与税の負担が生ずることとなります。
他方、適正な時価よりも高い価額で売却した場合には、買主から売主への贈与があったものとして取り扱われます。そのため売主は、所得税等とは別に、そのような贈与について贈与税額が発生するときは、贈与税の申告・納付を行う必要があります。
(2)買主が第三者たる法人であるとき
売主は、(1)の場合と同様、売却益について一般株式等に係る譲渡所得として所得税の確定申告を行う必要があります。
適正な時価よりも低い価額で売却した場合、実際の売却価額に関わらず、時価に基づいて譲渡所得を計算しなければならないことがある点に留意が必要です。
他方、適正な時価よりも高い価額で売却した場合、売主が適正な時価よりも多く得た金額については、売主が買主である法人の役員・従業員であれば給与所得または退職所得の収入金額として、そうでなければ一時所得の収入金額として取り扱われます。そのため売主においては、少数非上場株式の譲渡所得とは別に、その給与所得もしくは退職所得または一時所得についても、所得税等の負担が生じる可能性があります。
(3)買主が株式の発行法人であるとき
買主が株式の発行法人であるときは、少数非上場株式の売却は当該法人にとって自己株式の取得に当たるため、少数非上場株式の売却による対価を得た売主にみなし配当(会社法上の剰余金の配当には該当しないものの、その実質が剰余金の配当と変わらないために税法上配当とみなされるもの)が生じる可能性があります。法人の自己株式の取得により株主(売主)が金銭等の交付を受けた場合において、その金銭等の価額の合計額がその法人の資本金等の額のうち一定額を超えるときは、その超える部分の金額が配当とみなされ、株主(売主)は原則として、そのみなし配当の金額について配当所得(総合課税の所得金額)として所得税の確定申告をする必要があります。
少数非上場株式の譲渡で発生する税金の詳細については、以下の記事をご覧ください。
► 第1 非上場株式に関する基礎知識_5 非上場株式売却後の税務処理
11 少数非上場株式の譲渡に関するよくある質問と回答
質問1
Q 相続により取得した少数非上場株式を知人に売却したいと考えています。しかし、その会社の定款には、株式を譲渡する場合には会社の承認が必要であると定められています。会社が譲渡を承認しない場合、少数非上場株式を譲渡することはできないのでしょうか。
A 少数非上場株式を譲渡する方法として、①会社の譲渡承認を受けて希望の第三者に譲渡する方法、②譲渡承認を得られなかった場合、会社または指定買取人に株式を売却する方法があります。
したがって、①会社の譲渡承認を受けられなくても、②の方法によって少数非上場株式を譲渡することができます。
手続きの詳細については、以下の記事をご覧ください。
質問2
Q 私は、以前勤めていた会社の少数非上場株式を所有しています。しかし、今後会社の経営に関わる意思はなく、配当も行われていないため、このまま株式を所有していてもメリットはありません。この少数非上場株式を会社に買い取らせることはできますか。
A 交渉により会社に株式を買い取ってもらうことはできますが、会社に株式の買取を強制する手続きはありません。
会社との交渉が決裂した場合には、会社の譲渡承認を得て第三者へ売却する方法を検討することになります。譲渡承認を得られない場合には、会社または指定買取人に少数非上場株式を売却することができます。
手続きの詳細については、以下の記事をご覧ください。
12 少数非上場株式の譲渡のまとめ
少数非上場株式の売却を成功させるためには、当該株式の買取りに興味を示してくれる発行会社以外の第三者の買手をいかにして見つけられるかがポイントです。最終的に発行会社に譲渡するケースでも、そのまま当該第三者に譲渡するケースでも重要なポイントです。
最適な買手を見つけるためには、買手となり得る者の情報を最も豊富に有し、それらと実績に基づく関係を築いている専門家に相談することが必須です。
ご自身で少数非上場株式の買手を探したり、株式譲渡承認請求等の手続きを行ったりすることは容易ではありません。少数少数非上場株式の買取請求に精通した当事務所にご相談ください。