1 はじめに
株式は自由に譲渡することができるのが原則ですが、特に中小規模の会社においては、経営の安定を図るため会社にとって好ましくない者が株主となることを防ぐことを目的に、譲渡による株式の取得について会社の承認を要するとしていることが多々あります。このような譲渡制限がついた株式を、譲渡制限株式といい、非上場株式の多くはこのような譲渡制限がつけられています。
このような譲渡制限つきの非上場株式を保有している株主が、株式の売却を希望したとしても、会社自身に買い取る義務はなく、株主において買主となる第三者を探す必要がある一方、持株比率等によっては非上場株式を保有するメリットが薄く、なかなか買主が見つからなかったり、売主が満足する価格がつかなかったりする場合も多々あることから、譲渡制限つきの非上場株式を売却するハードルは必ずしも低いものではありません。
他方、少数株主の保護のため、会社法上、一定の会社の行為に反対する株主は、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買取ることを請求する権利が認められています(これを株式買取請求権と言います。)。
上記のとおり、反対株主の株式買取請求権は一定の場合にしか認められませんが、平成26年の会社法改正の際に、親会社による子会社株式の譲渡の際には親会社において株主総会の特別決議による承認を得ることが必要とされたことに伴い、それに反対する株主は株式買取請求権を行使することができるようになったため、本トピックスではその点をご紹介いたします。
2 親会社による子会社株式の譲渡の際の反対株主による株式買取請求権
(1)反対株主による株式買取請求は、主に以下の行為を行う会社の株主に認められています。
①発行する全部の株式を譲渡制限株式とする定款変更、種類株式発行会社において、ある種類株式を譲渡制限株式または全部取得条項付株式とする定款変更を行う場合の株主(会社法116条1項1号、2号)
②事業全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡、他の会社の事業全部の譲受け、事業の全部の賃貸・事業の全部の経営の委任・他人と事業上の損益の全部を共通にする契約及びこれらに準ずる契約の締結・変更・解約を行う場合の株主(会社法469条1項)
③吸収合併、吸収分割、株式交換を行う消滅会社等の株主(会社法785条1項)
④吸収合併、吸収分割、株式交換を行う存続会社等の株主(会社法797条1項)
⑤新設合併、新設分割、株式移転の消滅会社等の株主(会社法806条1項)
(2)このうち、上記②に関連して、平成26年の会社法改正により、以下のような規定が追加されました(会社法467条1項2号の2)。
第467条 株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。
二の二 その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)
イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。
ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。
平成26年の会社法改正以前は、親会社が子会社株式の譲渡をするのに株主総会の承認を要するとの規定はありませんでした。
しかし、子会社株式の譲渡をすることにより、事業譲渡をする場合と変わらないような大きな影響が親会社に対し及ぶ可能性があるため、そのような場合には株主総会による承認が必要とすべきであると解され、他方、譲渡する株式の帳簿価額が小さい場合など、会社に与える影響が小さい場合には、迅速な意思決定を重視すべきと言えます。
そこで、平成26年の会社法改正において、①当該譲渡により譲り渡す株式の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1を超えるとき、②当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないときのいずれにも該当する場合には、子会社株式の譲渡については、事業譲渡と同様、株主総会決議(特別決議)による承認が必要とされました(会社法467条1項2号の2、309条2項11号。なお、一部例外(会社法468条)もあります。)。
それに伴い、事業譲渡の場合(上記(1)②)と同様、親会社による子会社株式の譲渡に反対する親会社の株主は株式買取請求権を行使することができる、すなわち、会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができるようになりました(469条1項)。
(3)なお、「反対株主」とされるには、①当該株主総会に先立って子会社株式の譲渡に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、②当該株主総会において子会社株式の譲渡に反対する必要がある点(会社法469条2項)、株式買取請求は、子会社株式の譲渡に関する効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数を明らかにしてしなければならない点(会社法469条5項)についても、事業譲渡等と同様であるため注意が必要です。
3 最後に
以上、親会社による子会社株式の譲渡につき反対する株主は、株式買取請求権を行使することができるという点をご紹介いたしました。
上記のとおり、株式買取請求権を行使することができる「反対株主」であると言うためには一定の要件を満たす必要があり、また株式買取請求権を行使することができる期間も限られていることから、迅速かつ適切な対応を行うため、弁護士によるサポートが有用であると思われます。