1 はじめに
株式の譲渡は自由に行うことができるのが原則ですが、非上場会社においては、会社にとって好ましくない者が株主となることや、持株比率が変動(支配権が変動)することを防止する必要があるとの考えから、定款により、株式を譲渡する際には会社の承認を必要とする旨の制限を設けることが通常です。このような譲渡制限が設けられた株式を「譲渡制限株式」といいます。
以下では、上記のような譲渡制限株式を会社の承諾を得ることなく譲渡した場合の効力について、①買主との関係、②会社との関係、③会社以外の第三者との関係に分けて説明します。
2 ①買主との関係について
(1) 株券発行会社(株券を発行する旨の定款の定めがある株式会社)ではない場合
株式の譲渡は、売主と買主との間で株式の売買契約が締結されることによって行われます。この株式売買契約は、会社の承認の有無にかかわらず、売主と買主との間で、株式を譲渡する旨の合意があれば有効に成立し、売主と買主との間では当該株式の譲渡は有効です。
(2) 株券発行会社の場合
株券発行会社の場合は、売主と買主との間で株式を譲渡する旨の合意があることに加え、株券を交付しなければ、売主と買主との関係においても、当該株式の譲渡の効力は生じません。
もっとも、株券発行会社は、株式の発行後、遅滞なく株券を発行しなければならないのが原則ですが、非公開会社(発行している全ての株式について譲渡制限が設けられている会社)の場合には、株式の譲渡が頻繁には行われないことから、株主の請求がない限り、株券を発行しないことができるとされています。
また、公開会社(少なくとも1種類の株式について譲渡制限を行っていない会社)の場合であったとしても、株主が株券の発行を受けることを望まないことがあり得ることから、株主から会社に対して、株券の不所持の申出があった場合には、会社は当該株主の請求があるときまで株券を発行しないことができるとする株券不所持制度が用いられている場合があります。
上記のように、株券発行会社であるにもかかわらず、株券を発行していない場合には、株券が発行されるまでの間に売主と買主との間で株式を譲渡する旨の合意があれば、株券の交付がなかったとしても、売主と買主との間では、当該株式の譲渡は有効です。
3 ②会社との関係について
売主と買主との間で、株式の売買契約が有効に成立していたとしても、会社の譲渡承認を得ていない以上、会社に対する関係では当該株式の譲渡の効力は生じません。
もっとも、一人会社(株主が一人しかいない会社)の株主が、その保有する株式を譲渡する場合や、全株主が株式の譲渡に同意している場合には、他の株主の利益を保護する必要がないことから、会社に対する関係においても当該株式の譲渡は有効です。
なお、譲渡制限株式の譲渡を承認するか否かを決定する会社の機関は、取締役会設置会社の場合には取締役会であり、それ以外の会社の場合には株主総会であるのが原則ですが、定款で別段の定めをすることもできるとされています。
4 ③会社以外の第三者との関係について
売主と買主との間で、株式の売買契約が有効に成立していたとしても、会社の譲渡承認を得ていない以上、会社との関係のみならず、会社以外の第三者との関係においても当該株式の譲渡の効力は生じません。
5 会社が譲渡制限株式の譲渡を承認したものとみなされる場合について
会社が譲渡制限株式の譲渡を承認しない場合であったとしても、以下の場合には、会社が譲渡制限株式の譲渡を承認したものとみなされます。
(1)譲渡承認請求があった日から2週間以内に、会社が譲渡承認請求者に譲渡の承認をするか否かの通知をしなかった場合
(2)株主が、会社が譲渡承認請求を承認しない旨の決定をする場合には、会社又は会社の指定する指定買取人が当該株式を買い取ることを請求している場合において、会社が譲渡承認請求者に譲渡を承認しない旨の通知をし、上記の通知から10日以内に、譲渡承認請求者に指定買取人による買取りの通知を行わず、かつ、上記の通知から40日以内に、譲渡承認請求者に会社による買取りの通知も行わなかった場合
(3)株主が、会社が譲渡承認請求を承認しない旨の決定をする場合には、会社又は会社の指定する指定買取人が当該株式を買い取ることを請求している場合において、会社が譲渡承認請求者に譲渡を承認しない旨の通知をし、上記の通知から10日以内に、譲渡承認請求者に対し、「指定買取人による買取り」の通知を行ったのに、指定買取人が、上記の期間内に譲渡承認請求者に対して暫定買取代金の供託を証する書面を交付しなかった場合(指定買取人が買取りの通知を行う際には、1株あたり純資産額に買取株式数を乗じて計算した暫定買取金額を供託の上、供託を証明する書面を交付する必要があります。)
(4)株主が、会社が譲渡承認請求を承認しない旨の決定をする場合には、会社又は会社の指定する指定買取人が当該株式を買い取ることを請求している場合において、会社が譲渡承認請求者に譲渡を承認しない旨の通知をし、上記の通知から10日以内に、譲渡承認請求者に指定買取人による買取りの通知を行わず、上記の通知から40日以内に、譲渡承認請求者に対し、「会社による買取り」の通知を行ったのに会社が、上記の期間内に譲渡承認請求者に対して暫定買取代金の供託を証する書面を交付しなかった場合(会社が買取りの通知を行う際には、1株あたり純資産額に買取株式数を乗じて計算した暫定買取金額を供託の上、供託を証明する書面を交付する必要があります。)
(5)会社又は会社の指定する指定買取人が当該株式を買取ることとなり、売主と会社又は指定買取人との間で株式の売買契約が締結されたが、会社又は指定買取人において売買代金を支払わない等の債務不履行があり、売主が株式の売買契約を解除した場合
(6) 定款により、一定の場合には会社が株式の譲渡の承認をしたものとみなす旨を定めており(みなし承認規定)、その一定の場合に該当する場合(例えば、株主間の譲渡の場合や、一定数未満の株式の譲渡の場合)
6 さいごに
以上のように、会社の承諾を得ることなく譲渡制限株式を譲渡した場合、売主と買主との間では、当該株式の譲渡は有効ですが、会社や会社以外の第三者との関係においては、当該株式の譲渡の効力は生じません。
会社が承認しない場合、当該特定の買主への譲渡はできませんが、会社又は会社の指定する指定買受人に株式を譲渡することができますし、会社が譲渡制限株式の譲渡を承認したものとみなされる場合もあります。