1 表明保証条項とは
(1) 少数非上場株主が株式を譲渡する際、買主と株式譲渡契約を締結することとなりますが、株式譲渡契約書には表明保証条項が記載されることが一般的です。
表明保証条項とは、株式譲渡の契約当事者や株式発行会社に関する法務、税務、財務、労務等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、表明した内容を保証する契約条項です。
表明保証条項には「リスク分担機能」があり、株式発行会社に問題が生じた場合、株式譲渡の契約当事者がどの範囲で責任やリスクを分担するかを明確にする機能があります。
(2) 表明保証条項には、売買当事者に関するものとして、①双方が契約の締結能力や締結権限を有する正当な権利者であることを表明保証するもの、②双方が契約締結において法令等の違反がないことを表明保証するもの、③双方が反社会的勢力でないことを表明保証するもの、などがあります。
また、株式発行会社に関するものとして、売主が、①売買対象の株式を所有していることや、担保権等の第三者の権利が設定されていないことを表明保証するもの、②財務諸表や計算書類が適正であることを表明保証するもの、③簿外債務がないことを表明保証するもの、④労働紛争がないことを表明保証するもの、⑤取引先と債務不履行の問題がないことを表明保証するもの、⑥法令を遵守していることを表明保証するもの、などがあります。
2 表明保証条項違反に関する裁判例
表明保証条項の違反が生じた場合、契約の解除や損害賠償責任の問題が生じますが、裁判にまで発展し、表明保証条項の解釈等をめぐって争いとなることがあります。
以下では、主に表明保証条項の違反に関する裁判例について説明します。
(1)買主の主観(認識)について判示した裁判例
① 東京地裁平成18年1月17日判決は、「原告が、本件株式譲渡契約締結時において、わずかの注意を払いさえすれば、本件和解債権処理を発見し、被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず、漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合、すなわち、原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである」と述べ、表明保証された事実に反する事実があったとしても、買主がその事実を知っていたか、または知らなかったことに重過失がある場合、売主が表明保証責任を免れる余地があることを示唆しました。
② 上記裁判例のように、表明保証条項の違反を争う裁判において、買主の主観(認識)が考慮される可能性があることには注意が必要です。
(2)売主の主観(認識)について判示した裁判例
① 表明保証条項では、表明保証する事実について、「売主の知る限り」や「売主の知りうる限り」といった限定をつけることがあり、表明保証条項の違反に関する裁判においては、売主の主観(認識)が問題となることがあります。
② 例えば、東京地裁平成25年11月19日判決は、「被告が、旧〇〇社の経営に深く関与していたことから、」表明保証の範囲に含まれる「事実関係を知らなかったとはいえない。」と判示しています。
このように、裁判において、売主が表明保証の範囲に含まれる事実を知っていたか否か等、売主の主観(認識)が争点となることがあります。
(3)重大性について判示した裁判例
① 東京地裁平成19年7月26日判決は、「企業を買収するかどうかの決定、あるいはその対価の決定に当たっては、その対象となっている企業が保有する資産や負担している債務の状況等に関する情報を正確に把握し、それに基づいて企業の価値やその将来性等を的確に判断する必要があることはいうまでもないところである。」……が、「買収対象企業の財産や負債の状況等を把握するための事項を完璧に、かつ全く誤りなく開示することは極めて困難である上……、企業価値やその将来性の判断に当たって、買収対象企業の状況を細大漏らさず把握する必要があるとまで必ずしもいえないのであるから、考え得るすべての事項を情報開示やその正確性保証の対象とするというのは非現実的であり、その対象は、自ずから限定されて然るべきものである。
具体的には、本件基本契約書11条は、企業買収に応じるかどうか、あるいはその対価の額をどのように定めるかといった事柄に関する決定に影響を及ぼすような事項について、重大な相違や誤りがないことを保証したもので、同12条1項は、その保証に違反があった場合に損害補償に応じる旨を定めたものであると解するべきであ」る、として、表明保証される事実の対象を限定したうえで、「重大な相違や誤り」が無い場合は、表明保証条項の違反とはならないとしました。
② 表明保証された事実の「重大性」は、表明保証条項に明記されることもありますが、裁判においては、表明保証された事実と、実際の事実との相違や誤りが重大といえるか否かが争点となることがあります。
(4)損害について判示した裁判例
① 東京地裁平成23年4月15日判決は、表明保証条項違反に基づく損害賠償請求が認められた裁判例ですが、「原被告が、……DCF法による算定結果の差異が論理必然的に株式譲渡価格に影響を与える関係とする旨を合意した」とはいえず、「しかも、DCF法による算定は、将来予測を含むものであることからすると、本件譲渡価格と、本件追加納品代金支払債務の存在及び本件〇〇社売掛金債権の不存在を考慮してDCF法により算出したあるべき株式譲渡価格との差額が、原告が被った損害となるとの関係は、これを認めるに足りない」と述べました。
この裁判例によると、表明保証条項の違反があった場合、DCF法により計算された株価の下落分が必ずしも損害となるわけではない、ということとなります。なお、この裁判例では、純資産の減少分が損害とされました。
② 東京地裁平成27年6月22日判決は、「表明保証とは、契約を締結する際、一方当事者が、一定の時点における契約当事者自身に関する事実、契約の目的物等に関する事実について、当該事実が真実かつ正確である旨を明示的に表明し、相手方に保証するものであるところ、本件表明保証条項は、本件不動産の一部である〇〇工場について、営業の継続に重大な影響を及ぼす欠陥、瑕疵その他の不具合がないこと、〇〇工場で契約当時行っていた事業を行うために必要な行政当局の許認可等を適法に取得していることを保証するものであるから、被告の補償もその保証内容の実現に必要な限度にとどまると解すべきである」と述べ、表明保証された内容を実現するのに必要かつ合理的と認められる工事内容の費用等を損害としました。
この裁判例によると、表明保証条項の違反があった場合、表明保証された内容を実現するために費やされた費用の損害賠償請求が可能であるものの、必要かつ合理的な範囲で損害賠償請求が認められることとなります。
③ 上記裁判例のように、表明保証条項の違反を争う裁判においては、損害の範囲が、重要な争点の一つとなることが通常です。
※カギカッコ内は判例より引用しています。