1 はじめに
保有する非上場株式が譲渡制限株式(会社が定款により、株式を譲渡する際には会社の承認を必要とする旨の制限を設けている株式)である場合の少数非上場株式の売却は、議決権の過半数を超える非上場株式の売却に比較し、ハードルが高くなることは否定できません。
上記のような少数株主が生まれる主な原因の最たるものは相続です。すなわち、株主が何の対策も講ずることなく死亡すれば、株式は民法の定める法定相続人に対し、法定相続分に従って相続されるため、相続が発生する度に株式は細分化されます。
以下では、相続による非上場株式の散逸という事態が起こらないための対策として、「遺言」を活用する方法についてご説明します。
2 遺言を作成する際の留意点
遺言を作成すれば、法定相続分を変更することができるため、例えば、保有する全ての株式を相続人の1人に相続させる旨の内容を記載することにより、株式が散逸することを防止することができます。
しかし、保有する全ての株式を相続人の1人に相続させることとした場合には、当該相続人以外の相続人の最低限の取り分を保障した、いわゆる遺留分を侵害してしまう可能性があります。遺言により遺留分を侵害した場合でも遺言が無効になることはありませんが、侵害された相続人が遺留分侵害額請求を行ったり、遺言の有効性を争うことによりトラブルになることがあります。
上記のようなトラブルを避ける対策としては、以下のような方法が考えられます。
(1)遺言において、保有する全ての株式は相続人の1人に相続させるものの、その他の遺産を他の相続人に相続させることにより、そもそも遺留分侵害が起こらないようにする方法
もっとも、相続法の改正(令和元年7月1日より施行)に伴い、遺留分に関する規定も改正され、令和元年7月1日以降に発生した相続においては、遺留分侵害額請求をされたとしても、株式を相続した相続人には金銭債務が発生するのみであり、株式が散逸することにはなりません。
(2)「付言事項」を記載する方法
遺留分を侵害することになってしまうとしても、遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行わない場合には、遺留分が問題となることはありません。
そこで、遺言書には、法的な効果は生じないものの、相続人などへ向けたメッセージ(付言事項)を書くことができるところ、そのメッセージにおいて、遺言者の想いを書き残すことにより、遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行うことを自制するように働きかけるということが考えられます。相続人の自制に期待するもので、法的強制力を伴うものではありません。
(3)公正証書遺言の方法をとること
遺言の種類には、主に㋐公正証書遺言(遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して遺言書を作成する方式の遺言)と㋑自筆証書遺言(遺言者が、遺言の本文、日付及び氏名を自書し、押印することによって完成する遺言)が存在しますが、遺言の有効性が争われないようにするためには、㋐公正証書遺言により遺言を作成すべきです。
(4)事情の変化に応じた「遺言の変更」
遺言は一度作成すると二度と変更できないというものではなく、遺言者は、いつでも、新たに遺言を作成することにより、以前に作成した遺言の全部又は一部を撤回ないし変更することができます。
したがって、遺言を作成した後に事情に変更があり、保有する株式を相続させたい相続人が変わった場合には、適宜遺言を変更することが必要です。
(5)予備的遺言
遺言により株式を相続させるとしていた相続人が遺言者より先に死亡した場合は、当該遺言の効力は生じません。
その結果、特定の株式が他の相続人に法定相続分に応じて相続されることになるため、株式が散逸してしまうというケースが想定されます。
そこで、上記のような場合を想定し、予備的に株式を相続させたい次の相続人を遺言によって指定しておく方法が考えられます。第一次的に株式を相続させたいと考える相続人が遺言者と比較的年齢が近い等の事情がある場合には、上記のような予備的遺言を作成しておくことを検討すべきであると思われます。
3 さいごに
以上のように、相続が発生することにより株式が細分化され、譲渡制限株式の売却が困難となる事態を防止するための対策としては、いくつかの点に留意しつつ、遺言を活用することが有用です。
今回は、その対策の1つとしての遺言についてご説明しましたが、譲渡制限の付いた少数非上場株式であっても、買手となり得る者の情報を豊富に有し、それらと実績に基づく関係を築いている専門家に相談するなどして、それを有利に売却することは不可能ではありません。
当事務所は、少数譲渡制限株式(少数非上場株式)の売却において、豊富な経験に基づく高度なノウハウを備え、大きな実績を積み重ねており、広範囲にわたる独自の豊富な売却先情報からベストの買主を選定します。