非上場会社の少数株式を持っていても、配当が期待できず、会社経営に参画できる余地も少ない場合には、株式を売却したいと考える方が多いかと思います。
株式を売却する方法としては、株式を購入する第三者を探す方法の他、会社側(会社や会社の経営陣等)に少数非上場株式を買い取ってもらう方法があります。
もっとも、会社側に買い取ってもらう場合の会社側の購入価格の提案は、客観的な当該株式の価値よりもはるかに低い金額での提案となりがちであり、少数非上場株式を保有する株主としては不服であることが通常です。
この記事では、少数非上場株式を株主にとって有利に会社側に買い取らせる方法についてご説明いたします。
1 少数非上場株式は会社側に買い取らせることができる
2 少数非上場株式を会社側に買い取らせる方法
3 少数非上場株式を会社側に買い取らせる実例紹介
4 少数非上場株式を会社側に買い取らせるための課題と成功のポイント
5 少数非上場株式を会社側に買い取らせることに関するよくある質問と回答
6 少数非上場株式を会社側に買い取らせる方法のまとめ
1 少数非上場株式は会社側に買い取らせることができる
株主には、法定の事由がある場合を除き、会社側に対して株式の買取請求をする権利はありませんが、会社側との交渉により、会社側に少数非上場株式を買い取らせることは十分に可能です。
会社側との交渉が難航したり、交渉成立の見込みがないように見える場合でも、株主としては、その株式の購入を希望する第三者を探し、特定の第三者への売却の譲渡承認請求を会社に対して行うことができます。その場合、会社が、その第三者への譲渡を承認しない場合は、会社側で株式を購入しなければならないこととなります。その場合、株式の価格は、当事者間で合意が成立しなければ、最終的に、裁判所で決まります。ここで決まる価格は、その株式の「時価」であり、個々のケースに即して客観的価値が示されるわけです。
このような手続をたどって、少数非上場株式を、有利な価格で会社側に買い取らせる結果に至ることが多いと言えます。
2 少数非上場株式を会社側に買い取らせる方法
以上のことをもう少し詳しく、具体的に説明します。
(1)買い手を探す
いきなり会社側に対して株式の買取りを求める方法を取ることもありますが、会社側は、買取りを拒否したり、買い取るとしても、非常識な価格でしか買い取ろうとしないことがあります。また、株式の買取りを希望する具体的な買い手が存在しない段階では、会社側としても株式の買取りに応じる必要性を真摯に検討しない場合があります。そのため、株式を適正な価格で買い取ってくれる、会社側以外の、第三者の買い手を探すことは重要となってきます。
(2)会社に対して譲渡承認請求・買取先指定請求をする
非上場会社では、定款により株式を譲渡できる相手が制限されている場合が大半であり、買い手を見つけることができても、会社の承認が得られなければ株式を譲渡することはできません。そのため、会社に対して譲渡承認請求(会社法136条、137条)を行います。
会社に対して譲渡承認請求をする際、会社が譲渡を承認しない場合に備えて、会社又は会社の指定する指定買取人が株式を買い取ることを請求することもできます(会社法138条1号ハ、2号ハ)。
(3)会社が譲渡を承認した場合
会社が、譲渡承認請求のあった日から2週間以内に、譲渡承認請求者に譲渡の承認をする旨の通知をした場合には、株式を買い手に売却することができます。
会社が、譲渡承認請求のあった日から2週間以内に、譲渡承認請求者に譲渡を承認するか否かの通知をしなかった場合も、会社が譲渡の承認をする旨の決定をしたものとみなされ、株式を買い手に譲渡することができます(みなし承認。会社法145条1号)。
(4)会社が譲渡を承認しなかった場合
この場合、会社側が株式を買いとることとなります。
会社側が株式を買い取る場合には、会社による譲渡承認の拒絶の通知から40日以内に、譲渡承認請求者に会社による買取りの通知をします(会社法141条1項、145条2号)。
また、会社が株式の買取人を指定した場合には、指定買取人は会社による譲渡承認の拒絶の通知から10日以内に、譲渡承認請求者に指定買取人による買取りの通知をします(会社法142条1項、145条2号)。
(5)会社又は指定買取人と価格交渉をする
裁判所による売買価格決定の手続に入る前に、交渉により、会社又は指定買取人との間で、株式の売買価格が決まることもあります。
(6)売買価格決定の申立て:裁判所が決定した価格で会社又は指定買取人に売却
会社又は指定買取人との間で、株式の売買価格について合意が取れない場合には、会社又は指定買取人による買取りの通知があった日から20日以内に、裁判所に対して、売買価格の決定の申立てを行います(会社法144条2項、7項)。
裁判所は、譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して売買価格を決定します。
裁判所で決定される売買価格は、会社側の当初の提示額の数十倍の価格になることも珍しくありません。
したがって、少数非上場株式を有利に売却するためには、裁判所による売買価格決定のプロセスに持ち込むこと、このようなプロセスがあることを意識して、会社側と交渉を行うことが重要となります。
少数非上場株式を会社側に買い取らせる手続の詳細については、以下の記事をご覧ください。
► 第2 非上場株主による売却手続きの流れ・方法・成功のポイント_2 売却手続の流れと各手続の解説
3 少数非上場株式を会社側に買い取らせる実例の紹介
少数非上場株式を会社側に買い取らせる方法としては、大別して、
(1)裁判前の交渉により、少数非上場株式を会社側に買い取らせる方法
(2)裁判手続(株式売買価格決定申立)を利用して、少数非上場株式を会社側に買い取らせる方法
(3)(2)の裁判手続(株式売買価格決定申立)とは異なる裁判手続の中で、少数非上場株式を会社側に買い取らせる方法
の3つがあります。
ここでは、当事務所で売却に成功した実例について、この3つの区分に応じてご説明します。
(1)裁判前の交渉により、少数非上場株式を会社側に買い取らせることに成功した
実例
以下①~⑦では、会社側から開示を受けた資料をもとに、当事務所において株式価格を算定し、時には株式購入を検討するファンドとも折衝しつつ、会社側と交渉したことにより、株式を第三者に売却されるリスクや株式価値の大きさを会社側に認識させた結果、株主に有利な価格で少数非上場株式を会社側に買い取らせることに成功した事例をご紹介します。
① 兄弟間での対立となった少数株式を適正な価額で売却した事例
父親から株式を承継した兄弟間における株式の売却交渉について、株式の約30%を保有する弟からの依頼で、当事務所が株式の売却交渉を受任した。
まず、当事務所グループの公認会計士による株価試算を行い、依頼者保有株式の価値の目安を把握した上で、会社に対して買取りの交渉を申し入れた。
また、受任後すみやかに会社に対して、株式の評価に必要な資料の開示・提供を要求し、資料を取得した。
さらに、同時並行して、ファンドへの情報提供を行い、ファンドによる買取価格の把握も行った。
会社側も自社株評価を行ったが、会社側は5億円程度と算定し、当方の希望価格を大幅に下回る金額を提示した。事態を打開するため、当方は、会社側に対して、ファンドとの面談を強く要望し、これを実現させた。
最終的に、ファンドへの売却ではなく、会社側が買い取ることとなったが、当方は、会社側の当初の提示額である5億円を大幅に上回る10億円もの金額で会社側に株式を売却することに成功した。
② 持株比率10%の株式を、純資産方式による株式評価額以上で売却した事例
親族が経営している会社につき、10%の株式を保有する依頼者からの依頼で、当事務所が株式の売却交渉を受任した。
受任後、会社の社長に買取りの打診をしたが、相続税評価額を算定する際の類似業種比準方式による評価額である2億円でしか買い取ることができないとの一方的主張がなされた。
当事務所は、株式の時価評価額を算定するために、会計帳簿の閲覧請求をしたが、会社は閲覧請求に応じなかった。ただし、社長は、裁判等に発展し、紛争が拡大するのを嫌がっているようであり、株式の買取りについて柔軟に協議をしたいという姿勢に軟化した。
当事務所は、その後、社長と粘り強く交渉した結果、社長の当初の提示額である2億円を大幅に上回る12億円もの金額で、社長に株式を売却することに成功した。
③ 相続で取得した少数株式を適正な価額で売却した事例
創業者から株式の約10%を相続した、会社経営と無関係な創業者の孫からの依頼で、当事務所が株式の売却交渉を受任した。当事務所への依頼の前に、依頼者は複数の弁護士に売却交渉を依頼したことがあったが、いずれの弁護士も、非上場株式の売却交渉に明るくなく、経営者側親族の、5000万円程度との提案に対して、対案を出すことができず、全くなす術がない状況であった。
当事務所は、受任後、速やかに会社に対して株式評価に必要な資料の開示・提供を要求し、資料を取得した。
当事務所において、株価について、時価純資産方式、DCF方式、配当還元方式等による価格を算出し、さらに裁判例の詳細な調査を行った。加えて、少数非上場株式の買取りに積極的な投資ファンドに対して、情報提供を行ったうえで、経営者側親族との交渉に臨んだ。
当事務所は、経営者側親族に対し、「対象株式の適正な査定額及び詳細な根拠資料」及び「投資ファンドへの売却を視野に入れていること」を示したうえで、適正な価格での買取りを行うよう、交渉を重ねた。
最終的に、当初の経営者側親族の提示価額である5000万円を大幅に上回る7億円もの金額で株式を売却することに成功した。
④ 経営方針をめぐる意見の相違を機に時価純資産価額をベースとして株式を売却した事例
創業者の相続を機に株式が複数のグループ(A、B、C)に分散している会社において、Aグループ(3分の1程度を保有)が株式を他のグループもしくは会社に売却する方向で協議することとなり、Aグループからの依頼で、当事務所が株式の売却交渉を受任した。
当事務所依頼前は、過去の相続税評価額である1株あたり6000円をベースにした協議がなされていた。
当事務所では、現時点の相続税評価額、簿価純資産方式による価格、時価純資産方式による価格を算定したうえ、Bグループ、Cグループに対し、一部の不動産の売却により株式買取資金の原資とすることや、売却価格を不動産の時価とした上で株価の買取価格に反映させることを求め、その旨の合意を取り付けた。
結果、当初の協議のベースとなっていた1株あたり6000円を大幅に上回る、1株あたり約5万円、総額約5億円でAグループの保有する株式の全てを会社に売却することに成功した。
⑤ 受任から約3か月で、受任前に会社が株主に提示した額の3倍弱である約5億円で、発行会社に対し少数株式を売却した事例
相談者グループは会社の発行済株式の約15%を父から相続したところ、会社経営は相談者のいとこが承継し、相談者は全く関与していなかった。相談者は会社に対し保有株式を1株1万円で買い取ってほしいと申し入れていたが、会社からは1株2000円未満であれば買い取るとの、相談者にとって納得できない回答がなされていた。このような中、相談者からの依頼で、会社との売却交渉を当事務所が受任した。
受任後、当事務所で配当還元価格、純資産価格、収益還元価格、類似業種比準価格を試算したうえで、会社の代表取締役と直接面会した。
面談の席上で非上場会社の上記4種類の株価算定方式について説明資料を交付しながら、適正な株価を算定する必要性を説き、株価算定に必要な各種財務資料の提供を求め、同時に、専門家同士の協議を求めた。
また、当事務所の要請に応じない場合は第三者への株式売却を検討する旨を予告してその場を辞去した。
すると、その数日後、会社側から相談者に対し、会社側が当初提示した1株2000円未満の3倍弱の1株5000円で買い取るとの打診があったため、これを受け入れることとし、当初の提示額を大幅に上回る約5億円で株式を会社に売却することに成功した。
⑥ 相続税評価が高く、将来の相続税負担が危惧された株式を売却した事例
父親が創業した会社につき長男が後継者となって、長男とその家族が株式の80%を保有して経営を行っていたが、経営に参画していない二男も20%の株式を保有していた。将来の二男の相続時に、納税面で不安を抱える二男一家が、保有する株式全部を売却することを希望していた。二男からの株式売却交渉の依頼を受け、当事務所が受任した。
当事務所に依頼する前、長男から二男に対して、約6000万円で株式を買いとる、との話があった。
当事務所は、会計帳簿の閲覧請求をし、取得した会計帳簿を基に、純資産方式、DCF方式、配当還元方式による時価算定を行った。
当事務所は、かかる時価算定額を基準に会社側に売買の打診を行う一方、第三者の買主を探索し、買取りに興味を示した投資ファンドとの間で売却のための折衝をおこなった。
長男は、投資ファンドが株式を買い取ることを嫌がったようであり、当事務所は、当初の長男の提示額の約6000万円を大幅に上回る、約1億6000万円で株式を売却することに成功した。
⑦ 相続した2%の株式を持て余していたが会社側が買い取った事例
依頼者は遠い親族からの相続で株式の2%を取得したが、会社とは全く関わりがなかったため保有していても仕方なく、株式を手放したいとの意向を有していた。そのため、当事務所が株式の売却交渉を受任することとなった。
従前、依頼者が会社に買取りを依頼した際には、会社からは継続保有を求める旨の回答がなされていた。そこで、当事務所は、第三者に株式を売却することも選択肢に入れる方針をとることとした。
当事務所で、純資産方式、配当還元方式による株価算定を行った。そのうえで、当事務所から会社に対し、ある株主が株式を手放したいという意向であるが個人投資家への売却の際には速やかに譲渡承認がなされる見込みであるか問い合わせたところ、外部の個人投資家ではなく会社関係者への売却をお願いしたいとの回答がなされた。
その後、会社側と複数回の協議を重ねた結果、最終的には1株当たり200円(2%で総額2000万円)で持株会に譲渡することで合意が成立した。
(2)裁判手続(株式売買価格決定申立)を利用して、少数非上場株式を会社側に買い取らせることに成功した実例
以下①~③では、株式購入を希望する第三者への株式譲渡承認請求を会社が承認せず、会社又は指定買受人の買取価格が裁判所で決定されることとなり、裁判所を通じて、株主に有利な価格で少数非上場株式を会社側に買い取らせることに成功した事例をご紹介します。
① 相続により取得した株式を約400億円で会社側に売却した事例
会社の経営者であった依頼者の夫が亡くなり、依頼者は夫が保有していた株式を承継した。依頼者は会社の経営に参画したことはないため、承継した株式の会社による買取りを希望したが、会社の提示する買取額は50億円であり、当事務所の算定価額である600億円を大幅に下回る価額であった。
当事務所は、買受候補者の選定を行い、著名ファンドを買受人として、会社に対し、譲渡承認請求及び承認しない場合には買受人を指定すべきことの請求を行ったが、会社は譲渡を承認せず、グループ会社を買受人に指定したため、裁判所で売買価格を決定することとなった。
裁判において、会社側は、配当還元方式を基本的な株式評価方法として採用すべきであると主張し、本件株式の評価は50億円であるとの、裁判前の主張を繰り返した。
これに対し当方は、本件売買によって、夫の親族側は完全な支配権を取得することになるから、少数株式ではなく、支配権を有する株式として評価すべきであり、評価額は600億円を下らないと主張した。
相手方は有名監査法人の鑑定書や多数の著名学者の意見書を提出し、会社の総力を挙げてその評価の正当性を主張した。これに対し、当事務所は、それを上回る膨大な有名監査法人の鑑定書や多数の著名学者の意見書を提出し、裁判は、空前のものとなった。
最終的に、裁判所は当事務所の主張の多くを採用し、本件株式の評価額を、会社側の主張する50億円の約8倍もの、約400億円であると決定した。
② 会社側に支配株主として売却できた事例
父親から引き継いだ会社につき、長男、二男、三男の3兄弟による経営が行われていたが(長男が代表取締役)、長男と、二男、三男が経営方針の違いから対立するようになり、二男、三男は独立を考えるようになった。なお、株式保有割合は、長男が約3割、二男と三男が合計約4割、従業員持株会が約3割である。当初、二男と三男は、長男との話し合いにより株式を売却し、円満解決するつもりであったが、長男は一切話し合いに応じることはなかった。そのため、二男と三男より依頼を受け、当事務所が株式の売却交渉を受任した。
当事務所は、会社に対する会計帳簿等の閲覧謄写請求により取得した資料を基に、時価純資産方式や、収益還元方式などを用いて株式の評価額を計算し、長男との交渉を開始したが、長男から具体的な提案がなされることはなかった。
そこで、当事務所は、二男と三男が保有する株式の買受人候補として、第三者を選定したうえで、会社に対し、二男と三男が保有する株式の譲渡承認請求及び譲渡をしない場合には買受人を指定するよう請求した。
会社は、譲渡を承認せず、買受人として従業員持株会を指定した。裁判前の交渉では価格で折り合いがつかず、裁判所によって価格が決定されることとなった。
裁判において、会社側は、対象株式は支配株式として評価すべきではなく、少数株式として評価し、株価の算定については、配当還元方式を基本とすべきであると主張し、株式価格は最大でも5億円程度であると主張した。
これに対し、当方は、対象株式は支配株式として評価し、株価の算定については、時価純資産方式により評価すべきである、あるいは時価純資産方式と、収益還元方式を1:1の割合により併用すべきである、と主張し、株式価格は60億円から70億円を下らないと主張した。
その後、裁判所による不動産鑑定及び株価の公的鑑定において、時価純資産方式、収益還元方式、配当還元方式による評価額が5:4:1の割合で採用され、合計約24億円と鑑定された。裁判所は、公的鑑定の金額である約24億円による和解を勧告し、双方和解により同価格で解決した。
当事務所は、会社側が主張する5億円を大幅に上回る約24億円もの金額で株式を売却することに成功した。
③ 劣後株式を会社側に支配株式として売却できた事例
父親から引き継いだ対象会社につき、長男(株式の約3割を保有)と二男(株式の約3割を保有。保有する株式の多くが劣後株式。)による経営が行われていたが、経営方針の違いから対立するようになり、二男は経営の分離、独立を考えるようになった。二男は、独立にあたっての条件交渉を長男に申し入れたが、長男は話し合いに応じようとせず、二男からの依頼で、当事務所が株式売却交渉を受任した。
長男は、株式の売買価格として、簿価純資産価格である約2億円を提示してきた。当事務所は、不動産の鑑定も行った上、時価純資産価格により評価すべきであり、15~20億円が適正な株式評価であると主張したが、双方の評価額の開きが大きく、交渉継続は困難であった。
そこで、当事務所は、第三者の買主を選定し、株式の譲渡承認請求及び譲渡を承認しない場合には買受人を指定するよう請求したところ、会社側(長男)は、第三者への株式譲渡を承認せず、買受人として、長男を指定した。
裁判前の交渉では、株式価格について折り合いがつかず、株式価格は裁判所で決定されることとなった。
会社側は、対象株式は少数株式であり、支配株式として評価すべきでないとの主張を行ったが、当方は、支配株式として評価すべき、との主張を一貫して行った。
その後、裁判所による不動産鑑定及び株価の公的鑑定が行われ、対象株式は支配株式として評価すべきであると判断され、また劣後株式についてもほぼ普通株式の評価額と変わらない評価額が採用された。
結果、会社側の当初の提示額である2億円を大幅に上回る約8億円もの金額で株式を売却することに成功した。
(3)(2)の裁判手続(株式売買価格決定申立)とは異なる裁判手続の中で、少数非上場株式を会社側に買い取らせることに成功した事例
以下①~③では、株式売買価格決定申立とは異なる裁判手続の中で、事案の一挙解決のために当事務所から正当な株価算定方法や算定価格を主張したことにより、株主に有利な価格で少数非上場株式を会社側に買い取らせることに成功した事例をご紹介します。
① 退職を機に保有する少数株式を会社に売却した事例
対象会社の役職員であった株主が、退職を機に、保有する少数株式(約10%程度)の買取りを会社側に求めたが、拒否された。
当事務所は、受任後、会社側に改めて買取りの意向を伝えるとともに、第三者への売却も同時に検討することとし、会社側に対し株主名簿、計算書類、会計帳簿の閲覧謄写等を請求した。
しかし、会社側が上記各書類の開示を拒否したため、上記各書類の閲覧謄写等を求めて、当方は訴えを提起した。訴訟において、裁判所は当方に有利な心証を抱いたようであり、裁判所からは、依頼者の株式を会社側が買い取ることを内容とする和解が勧告された。
和解協議において、会社側からは配当還元方式を中心とする低廉な価格(1株あたり約8000円)が提示されたが、当方から純資産価額方式も踏まえた評価額(1株あたり約7万円)を主張した結果、裁判所から双方に対し買取価格に関する和解案(1株あたり約4万2000円、総額約6億円)が提示された。
最終的に、裁判所案による和解が成立し、会社側の提案である1株あたり約8000円を大幅に上回る1株あたり約4万2000円、総額約6億円での株式売買に成功した。
② 会社を追い出された後継社長候補者が創業者に対して訴訟を提起し、保有する株式を適正な価額で売却した事例
創業者から後継候補者として外部より招聘された依頼者が、創業者との経営方針の食い違いを理由に会社より放逐されたことから、保有株式(約35%)の買取りを求めて、株式の売却交渉を当事務所に依頼した。
依頼者は、当事務所に依頼する前に別の弁護士に売却交渉を依頼していたが、創業者側が依頼者の株式保有の事実自体を否定し、創業者との売却交渉が全く進展しなかったことから、依頼者は同弁護士への依頼を中止し、当事務所に改めて売却交渉を依頼したものであった。
当事務所で時価純資産方式、DCF方式、配当還元方式による株価を試算した。加えて、非上場少数株式の買取りに積極的な投資ファンドに情報提供も行った。
その後、創業者に対し、依頼者の株主権の確認を請求する訴訟を提起して株主権の確認を進めるとともに、裁判所の関与のもとに株主権確認訴訟の中で売却交渉も実行した。創業者側は株主権を否定していることを前提とする極めて低廉な価格(数百万円程度)での金銭的解決を主張したが、当方は「対象株式の適正な査定額及び詳細な根拠資料」、及び「投資ファンドへの売却を視野に入れていること」を示した。
結果的に、裁判において依頼者に株主権が存在することを事実上確定させ、裁判上の和解で、会社側の提案する数百万円程度を大幅に上回る約1億円での株式の売買に成功した。
③ スタートアップ企業の共同創業者が退社にあたり、保有株式を会社に売却した事例
対象会社は依頼者が友人と2人で設立したが、経営方針の相違から、依頼者が退社することになり、依頼者の保有株式(約20%)の売買交渉について、当事務所が依頼を受け、受任した。
当事務所グループの公認会計士によるフリー・キャッシュ・フロー方式による株価試算では、1株あたり821円(総額で1億6000万円強)であったが、これに対し、会社側が主張する株価は1株あたり126円(総額で2500万円強)であった。
相対での交渉では価格についての納得感が得られにくいとして、裁判所で行われる調停の申立てを行うこと及び裁判所から提示される売買価格を受諾することを合意し、当該合意にしたがって調停の申立てを行った。
調停においては、当方に有利な鑑定評価や意見をしてくれる公認会計士と連携して資料を作成し、裁判所選任の公認会計士の参考にしてもらうために提出するなどの工夫を行った結果、裁判所選任の公認会計士の鑑定結果である1株435円、総額8700万円での売買で合意した。
結果として、会社側の提案である2500万円強を大幅に上回る総額8700万円での売買に成功した。
4 少数非上場株式を会社側に買い取らせるための課題と成功のポイント
会社側に対し株式を売却する交渉を行うにあたっては、その株式を実際に買おうとする第三者が存在することを会社側に認識させ、不当に安い価格では株式を買い取ることはできないことを強く意識させることが重要です。
会社側との株式売買についての交渉が決裂すれば第三者へ株式が譲渡されてしまったり、裁判所で売買価格についての裁判をしたりしなければいけないこと、それを防ぎたければ、会社側が適切な価格で株式を買い取る必要があること等を会社側に強く意識させる必要があります。
そのため、具体的な第三者の買い手を探し出すことは重要となってきますが、最適な第三者の買い手を見つけるには、買い手となり得る者の情報を最も豊富に有し、それらと取引実績に基づく関係を築いている専門家に相談することが必須です。
さらに、会社側と価格交渉をする際には、会社側の情報を収集することも重要です。例えば、会社側が経営基盤の安定性や事業承継に問題を抱えていたり、散逸している株式を集約することによるメリットが大きいという事情が判明した場合には、そのような問題点を指摘することにより、会社側に対し株式の買取りを強く促すことができます。
このような交渉を行うのに必要な知識・情報・経験の不足を補い、会社側と対等な立場で価格交渉を行うためには、少数非上場株式の売却に精通した弁護士、税理士、公認会計士などの専門家に相談することが必須であり、株式売買に成功する近道である、といえます。
5 少数非上場株式を会社側に買い取らせることに関するよくある質問と回答
質問1
Q 少数非上場株主に、会社に対し、株式の買取りを求める請求権はありますか?
A 株主には、原則として、会社による特定の行為(一定の定款変更、株式併合、事業譲渡、組織再編など)に反対する等の例外的な場合を除き、会社に対して株式の買取りを求める請求権はありません。
しかし、会社側と交渉を行い、会社側に株式を買い取らせることは十分に実現可能です。また、会社側と合意に至らなかった場合でも、裁判手続を利用することによって、会社側に株式を買い取らせることが十分に実現可能です。
なお、株主に買取請求権が認められる例外的な場合(反対株主の株式買取請求権)の詳細については、以下の記事で詳しく説明していますので、ご参考にしてください。
► 第3 反対株主による買取請求の流れ・方法・成功のポイント_1 反対株主による買取請求のあらまし
質問2
Q 会社に、少数非上場株主の株式を買い取る義務はありますか?
A 原則として、会社には、株式の買取義務がありません。そのため、少数非上場株主が会社に対して、やみくもに株式の買取りを求めても、会社からは、株式の買取りを拒否されるか、買い取るとしても、極めて低額な買取価格を提示されることがほとんどです。
そこで、まずは会社以外の買い手を探す必要があります。買い手が見つかった場合は、会社に対して譲渡承認請求を行い、会社が譲渡を承認すれば、買い手に株式を売却することができます。また、会社が株式の譲渡を承認しなかった場合でも、会社又は指定買取人に株式を売却することができます。
会社又は指定買取人との売買価格の交渉が成立しない場合には、裁判所に売買価格決定の申立を行い、裁判所が決定した売買価格で会社又は指定買取人に株式を売却することもできます。
詳細については、以下の記事をご覧ください。
► 第2 非上場株主による売却手続きの流れ・方法・成功のポイント_2 売却手続の流れと各手続の解説
6 少数非上場株式を会社側に買い取らせる方法のまとめ
本記事では、会社側との交渉又は裁判手続を利用することで、少数非上場株式を株主にとって有利に会社側に買い取らせることが可能になるということをご説明しました。
少数非上場株式を会社側に買い取らせるにあたっては、法律、税務、財務の問題が密接に絡み合っているため、弁護士、税理士、公認会計士のサポートを受けることが有用です。少数非上場株式を会社側に買い取らせることをご検討される際は、少数非上場株式を会社側に買い取らせることに精通した弁護士、税理士、公認会計士が多く在籍する当事務所までご相談ください。